ドナルド・キーン『日本人の西洋発見』中公文庫(1982)
この本は、主に徳川中期から盛んになってきた蘭学を中心とする対外認識の変貌を、一つの知的運動として捉え叙述した隠れた名著として知る人ぞ知る本です。
読み易い訳文で読み物としても成功している本と言う印象を持ちました。本多利明の面白さを発見したことがキーンのもともとのこの本を書く動機でしたから、それが中心となるのですが、他にも司馬江漢、最上徳内、間宮林蔵等を配してさしずめ"蘭学の知性史"といった趣です。
面白いところを挙げていくと、対中国観の変遷(中国から支那へ)、林子平が『海国兵談』で指摘した、日本の伝統的な兵学が中国のテキストを中心に講じられたきたため海国であるにも関わらず陸戦主体で、海戦とか長い海岸線をどう防衛するか、という問題が全く扱われてこなかったこと、江戸時代、仏教はインテリから蔑視されていたこと、そして、坊主のリクルートの主な供給源は農村の子弟であったこと、「和魂漢才」一辺倒から「和魂洋才」一辺倒(いわゆる蘭癖)への変貌、平田篤胤「神学」が意外にもキリスト教を下敷きにしたものであること、等です。
日本における対外認識の構図(perspective)の転換を興味深く書いたものとして一読に値すると思われます。
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