D.H.ロレンス「菊の香」D. H. Lawrence, "Odour of Chrysanthemums" 1911.
読んでいるこちらにも、カチカチという時計の音が聞こえてきてしまうような前半部といい、人生において誰もが持っている「生きるための仮説」が、菊の香りとともに一挙に崩壊していく後半部といい、映画的なイメージを喚起する短編小説です。誰に脚本、監督させたらよいか、考えてみるのも、楽しい読み方でしょう。「天国と地獄」を撮った頃の、黒澤明が監督するのも一興かと思います。それにしても、この作品を26歳で書いてしまう、作家という人種にはほとほと驚かされます。
一つ思い出すのは、川端康成『川のある下町の話』で、病気がちの弟がついに死んでしまったとき、その美しい姉が「冷たくって嫌だわ」と弟の躯から身を離してしまう場面。「菊の香」の後半部分の夫の亡骸を着替えさせているところと、どこかしら似てます。戦前からロレンスは日本で人気があったそうですから、新感覚派の作家にも影響を与えていたかもしれません。
※私が読んだのは、
ロレンス短編集 (新潮文庫新版2000年)
※オリジナルなら。
Odour of Chrysanthemums - D.H. Lawrence | The Short Story Project
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