« マンスフィールド短編集(新潮文庫1979) | トップページ | 阿部 昭『短編小説礼讃』(岩波新書1986) »

2005年5月10日 (火)

D.H.ロレンス「菊の香」D. H. Lawrence, "Odour of Chrysanthemums" 1911.

 

ロレンス短編集(新潮文庫、2000年)に収められている「菊の香」は、発表当時から編集者をして「天才」と謂わしめた初期の傑作です。

 読んでいるこちらにも、カチカチという時計の音が聞こえてきてしまうような前半部といい、人生において誰もが持っている「生きるための仮説」が、菊の香りとともに一挙に崩壊していく後半部といい、映画的なイメージを喚起する短編小説です。誰に脚本、監督させたらよいか、考えてみるのも、楽しい読み方でしょう。「天国と地獄」を撮った頃の、黒澤明が監督するのも一興かと思います。それにしても、この作品を26歳で書いてしまう、作家という人種にはほとほと驚かされます。 

 一つ思い出すのは、川端康成『川のある下町の話』で、病気がちの弟がついに死んでしまったとき、その美しい姉が「冷たくって嫌だわ」と弟の躯から身を離してしまう場面。「菊の香」の後半部分の夫の亡骸を着替えさせているところと、どこかしら似てます。戦前からロレンスは日本で人気があったそうですから、新感覚派の作家にも影響を与えていたかもしれません。

※私が読んだのは、
ロレンス短編集 (新潮文庫新版2000年)

※オリジナルなら。
Odour of Chrysanthemums - D.H. Lawrence | The Short Story Project

※ペーパーバックなら、
Selected Short Stories (Dover Thrift Editions)

|

« マンスフィールド短編集(新潮文庫1979) | トップページ | 阿部 昭『短編小説礼讃』(岩波新書1986) »

映画・テレビ」カテゴリの記事

文学(literature)」カテゴリの記事

cinema / movie」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: D.H.ロレンス「菊の香」D. H. Lawrence, "Odour of Chrysanthemums" 1911.:

« マンスフィールド短編集(新潮文庫1979) | トップページ | 阿部 昭『短編小説礼讃』(岩波新書1986) »