関曠野『歴史の学び方について』窓社(1997)
在野の思想史家関曠野は、『プラトンと資本主義』(1982)そして、『ハムレットの方へ―言葉・存在・権力についての省察』(1983)において、1980年代の日本の読書界に、静かに深い衝撃を与えた。その波紋が未だに続いていることは、この二書が90年代に入り、新たに「あとがき」を付して、改訂新版として世に問われ現在に至っていることが雄弁に物語っている。ただ、その新たな序文が示唆するものは、著者関曠野の決定的な転換だ。それも、変節や転向ではなく、自己の思想に忠実に、学び直し成長したためなのである。
この小さな本は、現在の関曠野の成長した思想を率直かつ大胆に述べる。その副題から、「つくる会」筋を腐らせるための時論の書と即断してはならない。それどころか、現在の関曠野の思想的到達点が、ここに凝縮されていると言ってよいと思う。「人間とは何か」、「なぜ人間は歴史を持つのか」。この問題の、著者による設定理由と回答が、哲学的晦渋さとは無縁の平明簡潔な言葉で収められているからである。
人間を自然から歴史へと追放する根源的ディレンマ。それ故の根源的な人間の自由。その自由のため、制限された存在である人間は、善をなし、同時に悪をなす。事実、歴史は人間の過ちで満ちている。しかし、そこに、歴史の過ちを認め、学び直し、成長する、自由な人間の可能性と未来がある。この人間存在に関する思索を、ロック、カルヴィニズム、ユダヤ教、と政治思想史的淵源をたどりながら記述しているのが、理論的心臓部である第II部である。続く第III部では現代日本人に、明治以来しくじり続けている政治的権威の創出を、歴史を学び直すことと市民改憲を通じて民族的課題として訴えている。
かつて著者は、「革命とは他者を変えることではなく、自らが変わることである。」と喝破した。私を含めた読者が、この書における著者自らの学び直しとしての革命の実践を、一つの範例と認めるかどうかは、私たちがお互いを善意ある隣人として信じられるかどうかにかかっていると思う。
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