I.バーリン対A.セン
1998年ノーベル経済学賞を受賞したA.センと1997年に亡くなった政治思想家I.バーリンは、1950年代の終わりに、ちょっとした論争をしている。センはまだ20代バリバリの少壮数理経済学者として、バーリンは成熟した40台の政治思想家として。
論争そのものは、バーリンのエッセイに対して若きセンが噛み付き、それに対してバーリンがだいぶ経ってから(10年後)反論したというものである。だから、論争というよりは応答というべきかも知れない。随分のんびりしたものだが、内容はかなり深刻である。なにせ、決定論と道徳が両立するかしないか、という人間性に関する見解の対立だから。
「もしも決定論が真であると証明されるなら倫理のことばは徹底的に改められねばならないだろう」アイザィア・バーリン『自由論』みすず書房1971、p.31
ここで、バーリンと関曠野は同一地平に立つ。
「・・・この思想(「自然」という思想;引用者注)の暗黙の狙いは、人間は自由なるがゆえに道徳的責任を免れえない存在であるという倫理の否認だからである。」関曠野『歴史の学び方について』1997、p.137
同じ人間観に立つの理由は、二人が旧約の思想を踏まえているからであろう。バーリンはユダヤ人として、関曠野は人間性の探求者として。
センの思想における決定論が現在どうなっているのかわからないが、少なくとも社会”科学”者の言には気をつけたほうがよさそうだ。彼らには、人間行為における責任や、善悪の判断に裏付けられた自由、という言葉が通じないからである。
※センのことは下記記事でチラッと触れた。
I.バーリン『自由論』(2)
| 固定リンク
「西洋」カテゴリの記事
- LILIUM: ラテン語によるアニソン/ LILIUM: The anime song written in Latin (2)(2023.11.28)
- 自由と尊厳を持つのは、よく笑い、よく泣く者のことである(2)/ Freiheit und Würde haben diejenigen, die oft lachen und oft weinen (2)(2023.06.06)
- 自由と尊厳を持つのは、よく笑い、よく泣く者のことである(1)/ To have freedom and dignity is to be one who laughs often and cries often (1)(2023.06.05)
- Giuseppe Arcimboldo vs. Utagawa Kuniyoshi(歌川国芳)(2023.05.24)
「古代」カテゴリの記事
- 二千年前の奴隷解放令/ The Emancipation Proclamation of 2,000 years ago(2023.01.29)
- Women's Loyalty: Feminism in the Twelfth Century(2022.05.30)
- 女の忠誠心 十二世紀のフェミニズム(2022.05.10)
- 千年前のリケジョ(理系女子)/ A Millennial Science Girl(RIKEJO)(2022.03.14)
- 肉体は頭の下僕?/ Is the body a servant of the head?(2021.12.15)
「書評・紹介(book review)」カテゴリの記事
- Rose petals in the canyon(2023.10.25)
- 峡谷に薔薇の花弁を(2023.10.25)
- 戦後日本の食料自給率なぜ低下したか?/ Why did Japan's food self-sufficiency rate decline after World War II?(2023.09.18)
- The genuine "leader" by Peter F. Drucker / 真のリーダー(ピーター・ドラッカー)(2023.09.12)
- 動物に心はあるか?/Do animals have minds or hearts?(2023.09.02)
「思想史(history of ideas)」カテゴリの記事
- 徂徠における規範と自我 対談 尾藤正英×日野龍夫(1974年11月8日)/Norms and Ego in the Thought of Ogyu Sorai [荻生徂徠](2023.08.30)
- 徳川思想史と「心」を巡る幾つかの備忘録(3)/Some Remarks on the History of Tokugawa Thought and the "mind"(kokoro「こころ」)(2023.06.11)
- 初期近代の覇権国「オランダ」の重要性/ Importance of the Netherlands as a hegemonic power in the early modern period(2023.05.15)
- Wataru Kuroda's "Epistemology"(2023.05.01)
- 黒田亘の「認識論」(2023.04.30)
「知識理論(theory of knowledge)」カテゴリの記事
- 「鐘」と「撞木」の弁証法、あるいは、プロンプトエンジニアリング(2)(2023.08.12)
- 「鐘」と「撞木」の弁証法、あるいは、プロンプトエンジニアリング(1)(2023.07.19)
- You don’t know what you know(2023.07.16)
- Wataru Kuroda's "Epistemology"(2023.05.01)
- 黒田亘の「認識論」(2023.04.30)
「Isaiah Berlin」カテゴリの記事
- ロシア人における20世紀とはなにか?/ What is the 20th century for Russians?(2022.03.18)
- イザイア・バーリン(Izaiah Berlin)の歴史哲学と私の立場/ Izaiah Berlin's Philosophy of History and My Position(2020.04.13)
- 歴史の必然 Historical Inevitability (2)(2020.03.25)
- 私の知的リソース・ダイアグラム/ My intellectual resource diagram(2021.01.22)
- 「個人の自由とデモクラシーによる統治とのあいだにはなにも必然的な連関があるわけではない」(2015.07.21)
コメント