《自己責任》をめぐって
一つの英語による例文を引こう。
A politician must be responsible to the voters for his actions.
政治家は投票者に対して己れの行動に責任をもたねばならない。
さて、そうすると、英文での責任(responsible、responsibility)を論じるとき、要件が二つあるということがわかる。
誰それが、
1)誰に対して(to anyone)
2)何について(for anything)
責任がある(be responsible)、
というわけだ。
この文脈で言うと、《自己責任》という言葉は意味不明になってくる。
「人間は、自分の行いについて、自分に(?)対して責任がある。」
じゃ、何かおかしい。
「人間は、自分の行いについて、すべての人間に(?)対して責任がある。」
これでは、いくら体があっても足りないだろうし、誰に対しても責任がない、との実質変わらない。それとも、「世間に対して」なのだろうか。じゃぁ、「世間」って誰?
つまり、巷間、言われる、《自己責任》とは、「自分の行いによって発生するかもしれないリスクは自ら負担すべきだ。」ということに過ぎないので あって、それをあたかも《責任論》であるかのように論じる、議論のすり替えが、ここ何年も日本のメディアでまかり通ってきた、というわけである。
責任を論じる場合、「誰が、誰に対して、いかなる責任があるか」を明確にしなければ、逆に、責任転嫁のレトリックにしてやられかねないと知るべきだろう。
この項、
A.シュッツ『現象学的社会学の応用』1997年
第9章 責任観念の多義性
を参照。
※以下、ご参照を乞う。
責任観念の多義性(1)
責任観念の多義性(2)
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