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2005年11月17日 (木)

あなたが、ある朝突然、逮捕されたとき、

日本国憲法(1946)は、あなたを守ってくれるでしょうか。

 すぐ、私たちが頼りにしなければならないのは、第33、34条です。

〔逮捕の制約〕
第33条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

〔抑留及び拘禁の制約〕
第34条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

 難しいですが、シミュレーションしてみます。二つの事をすぐ実行する必要があります。

1)「逮捕令状を確認させて下さい。」、と令状を確認する。(任意同行なら拒絶できるが、拒絶の仕方に難癖をつけて、公務執行妨害の現行犯として逮捕される可能性もある。)

2)「弁護人を依頼します。~弁護士会の弁護士を選任しますから、連絡させてください。弁護士が来るまで、黙秘権を行使します。」

 ただ、警察官たちは、あなたの権利の説明をしながら、怒涛のように、あなたを何人もの捜査員で取り囲み、パトカーに押し込むでしょう。すると、弁護士会に連絡するのは、警察署に連行されてからになる可能性が高い。

 問題はここからです。警察官たちは、あなたを取調室に連れてきて、尋問を始めます。そして、あなたの外部への連絡の要請を、のらりくらりと先延ばししながら、はぐらかしつつ、尋問を続けます。そして、捜査員たちは、あなたを休ませないように、複数の捜査員が交代であなたの取調べを延々と続けます。

 当然、無実の罪なら、物的証拠はありません。すると、自白の強要を画策します。そこで、最も効果的なのは、上記のような、外部との遮断と、疲労です。

 日本の刑事事件で冤罪が絶えないのは、憲法第38条で、自白の証拠能力について留保がついているにも関わらず、裁判でも自白が重視され、それにあわせて、捜査員たちが実質的な《自白の捏造》をするからです。

 それらの防ぐには、最低限、被疑者が外部と連絡する権利が保障されている必要があります。それを「外部交通権」といいますが、現状の1946年憲法ではその点が明示されていません。ところが、マッカーサー憲法案では、しっかり存在しました。*↓

《 he shall not be held incommunicado. 》**
「何人も、外部との連絡を一切遮断されたままで留め置かれることはない。」

 憲法制定過程において、日本側の役人によって、削除されてしまった箇所の本質的に重要なものの一つです。つまり、現状の日本国憲法そのものが実質的に《改憲》済みなのです。悪くなっちゃってる憲法を「護る」というメンタリティに疑問を感じますね。

 また、外国の例で言えば、スイス憲法第31条第二項では、

Article 31  Habeas Corpus
(2) In particular, he or she has the right to have his or her close relatives informed.
特に、最も身近な親族にその旨を告げる権利を有する。

、という形で、「外部交通権」を保障する工夫をしています。

 憲法に詳細規定を入れず、それでいて条文変更もしない解釈運用は、結局、憲法の名宛人である権力者(実質的に役人)の恣意的な解釈を許してしまいます。日本の1946年以降の半世紀はその連続でした。それは、権力者にとり、《改憲》より都合がよい《「憲法=法」の空文化》を可能とさせたきたのです。「外部交通権」を明文化する憲法改正は、恣意的憲法運用を防ぎ、より明確に権力者たちを縛るための改正、の一つの例です。***

注* この議論は、

時代塾改憲フォーラム

における、

世界人権宣言と日本国憲法ブログ

での議論を使わせていただきました。より詳しい議論を知りたい場合は、上記サイトを参照してください。

注** マッカーサー草案については、下記を参照。

国会図書館(NDL)、日本国憲法の誕生、資料と解説、第3章 GHQ草案と日本政府の対応、
3-15 GHQ草案 1946.2.13

注*** 「外部交通権」を含む問題については、日弁連の下記サイト記事を参照してください。
第56回定期総会・未決拘禁制度の抜本的改革と代用監獄の廃止を求める決議

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