キャサリン・マンスフィールド「パーカーおばあさんの人生」
子供のいじらしさについては、下記の短編小説の一節にも、深く心動かされるものがある。
祖母の首っ玉に絡みついて、小遣いをねだる幼い孫息子。いやいやをしながらも、愛情に負けて財布を取り出す老女。「だったら、お前は、おばあちゃんに何くれる?」と戯れに尋ねると、その幼な子は「何にもないの。」と答える。
それなのに、苦ばかり多き人生で、唯一得た宝物の孫息子を病で失ってしまう。そして、絞りだすようにして呟(つぶや)くのだ。
"What have I done?"
「私がいったい何をしたというのだろう。」
玩味戴きたい。
"Gran! Gran!" Her little grandson stood on her lap in his button boots.
He'd just come in from playing in the street.
"Look what a state you've made your gran's skirt into - you wicked boy!"
But he put his arms round her neck and rubbed his cheek against hers.
"Gran, gi' us a penny!" he coaxed.
"Be off with you; Gran ain't got no pennies."
"Yes, you 'ave."
"No, I ain't."
"Yes, you 'ave. Gi' us one!"
Already she was feeling for the old, squashed, black leather purse.
"Well, what'll you give your gran?"
He gave a shy little laugh and pressed closer. She felt his eyelid
quivering against her cheek. "I ain't got nothing," he murmured ...
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コメント
おお、かわうそ亭さん
今しがた、貴blogの作文の記事にコメントをつけていたところです。奇遇(^^v
マンスフィールドは、1923年に34歳の生涯を閉じました。実人生において、鼻持ちならない独りよがりの鋭敏な娘にしかすぎなかったマンスフィールドは、その早い晩年においてこのような小説の書き手となるまでに成熟しました。これら一群の小説を書くために彼女の生はあったと言えましょう。私は再び中島敦を想起します。もう一度引用しましょう。
「その苦労をすることが出來るものにとっては文学はさうした作品以外のどのようなものでもない筈である。」
吉田健一の中島敦評(2005.05.08付、私の記事、参照)
投稿: renqing | 2005年12月18日 (日) 22時59分
こんばんわ。たまたま、今日、教えて頂いた『マンスフィールド短編集』(新潮文庫)を読んでいました。
この「パーカーおばあさんの人生」の最後の文章——
「そして、いま、雨が降りだした。どこにも行くところはなかった。」
悲しくせつないですね。ほんとうにいい小説だ。
投稿: かわうそ亭 | 2005年12月18日 (日) 22時31分