敬語の絶滅
敬語の絶滅は、その背景にある「敬語的人間関係」の消滅を予想させる。日本の社会的文脈における「敬語的人間関係」は、イエ社会での個人関係が、イエ格 v.s イエ格で表象される悪しき面と、どの社会でもある普遍的な、人間的敬意関係の両方を重層的に担っていた。本来は、後者の側面が前者を飲み込んで、発展的に解消されれば良かったのだが、戦後日本では、社会的紐帯として《イエ》関係が、法共同体へと置き換わらなかったため、敬意的人間関係も危殆に瀕している。
イエの《恥の倫理》もなければ、《法と罪の論理》もない。そういうアナーキーに瀕しているにも関わらず、現代の日本が無秩序と混乱に滑り落ちるのを今一歩踏みこたえているのは、ひとえに過去の惰性(栄光?)と、今の日本人の人間的エネルギー枯渇に起因する、というのが私の、現在の見立てである。
追記。↑大事なものを忘れてました。戦後日本の秩序崩壊を最終的に担保していたのは日米安全保障条約です。思想史家関曠野の議論から示唆を受けました。
またしても、他blogへの自己コメントから流用させてもらいました。すみません。いま、頭がクラクラしてどうにも働かないもので。(-_-;
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コメント
「ア」、いいですねぇ。言語構造的に類縁関係にある、ハングルやモンゴル語の敬語は如何。
私はよくわからないのですが、ヨーロッパでの日常生活で、自分より年配の方への話し方や、本当に尊敬している師などとの会話で、敬意の表し方はどうしてるのでしょうか。
投稿: renqing | 2006年1月 2日 (月) 15時30分
以前、ドイツ在住日本人の友人と、敬語って何だろう、という話をしたことがありました。結論は「敬語=ビビリ語」、つまり格下が格上に「私はビビっております、へへえ」というメッセージを伝えるための言葉、というわけです。
もちろん、皇族が自分自身について使う「威張り語」でもあるし、謙譲語という「自己卑下語」でもあるし、もちろん人間関係を円滑にするための丁寧語でもあるわけで、上の結論が完全だとは思いません。ただ、建前にせよみな平等な社会ならば、丁寧語以外の機能は簡略化されて良く、ファーストフード店の符丁、慇懃無礼の表現になるくらいならばないほうがよい、という気もします。
このさい、ベトナム語なみに簡略化してはどうでしょうか。ベトナム語では、文末に「、ア」を追加することで丁寧、尊敬の意志を表します。
(例)「先生、この問題分かんない、あ。」
投稿: 松本和志 | 2006年1月 2日 (月) 06時52分