なぜ、天皇制は続いてきたか?
関曠野 訳者解説 ヒレア・ベロック『奴隷の国家』太田出版 2000年
p.252
「なぜ東国の武家は、たんに皇族と血のつながりがある貴種という理由だけで、源頼朝を武家の棟梁の座に据えたのか、なぜ徳川幕府すら、ついに皇室を廃絶しなかったのか、結局これは、所有には国家が承認した権利としての公法的な支えが必要なことを武家が意識していたことを示すものといえよう。」
p.252
「もともと武家は、律令国家の体制から完全に自立した存在ではなく、権門勢家の下僕としてその胎内で成長し、貴族の権力を簒奪しつつのし上がってきた階級だった。征夷大将軍という武家の最高の地位もタテマエ上は天皇から叙任されたものだった。そして彼らの公的な地位と同じく、彼らの所有の公的性格も律令国家の遺制に由来しているのである。だから武家は、彼らの所有が力と駆け引きの偶然的な産物にすぎず所有の正当化には公法的な基盤が必要なことを意識しているかぎり、天皇制を廃絶することはできなかった。彼らには、それに代わる国家体制を創出する能力がなかった。それゆえに天皇制の存続は、日本が結局中国文明の娘文明でしかなくいつまでたっても中国の影響力から自立できないことを意味する。」
p.253
「こうして日本史における私有財産の問題に関しては、以下のことが結論できる。(一)私有財産の公法上の不可侵な権利としての正当性は確立されなかった。(二)天皇制は公法の不在を埋め合わせるその代用品として存続してきた。(三)武家に支配された日本では公と私が分裂しており、私的所有を正当化するためには武家は公けには私的なるものを否定しなければならない。」
この項、続く予定(たぶん)。
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コメント
非常に簡潔に日本の国家構造を言い切っている。
感謝。
投稿: 古井戸 | 2006年9月19日 (火) 00時32分