明治天皇の戦争責任
標題をもう少し詳しく言い直せば、「明治天皇の戦争に対する責任」である。それはまた、明治憲法下にあった大正天皇、1947年5月2日までの昭和天皇も同様だ。以下、軍を、明治憲法体制の一環として位置づけた、類希な研究書から引用しよう。
三浦裕史『軍制講義案』信山社1996年 p.36
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天皇は統治権の主体である(1条)。天皇は国家の最高機関であり、憲法に基づいて統治権を行使する(4条)。天皇は立法権を有し(5条)、司法権は天皇の名において行使される(57条)。憲法上、天皇は無答責であり(3条)、国務各大臣の輔弼を受ける(55条)。国務大臣は憲法に規定された唯一の輔弼機関であり、輔弼責任が負う。輔弼事項に限定はないから、国務大臣は天皇の憲法上の行為全体を輔弼すべきであり、いわゆる統帥権の独立 -統帥権を国務大臣の輔弼事項から除外する -は違憲の慣行である。この慣行において、天皇は、統帥権の行使につき有責であり、憲法第三条によって救済されることはない。憲法を踰越した行為に関し、憲法において、その責任を解除することはできない。
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つまり、明治憲法体制上は、陸軍は陸軍大臣、海軍は海軍大臣の命に服することが合憲であり、帷幄(いあく)上奏などといって、陸軍参謀総長や海軍軍令部長が、所管大臣をスキップして、天皇とコソコソ話して、戦争指導などを決定してしまうと、
大日本帝国憲法 第三条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
※大日本帝国憲法条文の詳細は、下記の国立国会図書館(NDL)サイトを参照。
大日本帝国憲法
という、条項が無効になってしまうわけ。これが、本当に「法の支配=法が権力者をも支配する」ということの意味である。
(続く・・・・予定)
*下記も参照を請う。
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