‘痛い’話(2)
エピソード2
サラリーマンの朝は忙しい。それで、例えば、駅の雑踏で人にぶつかったりしてしまっても、何事もなかったかのように人々は目的へ向かってズンズン進んでいく。
ある朝、駅の地下通路を忙しく、人々と交錯していると、ついすれ違いざまに、男性の足を踏んでしまう時があった。しかも、謝るひまもなくその男性も歩き去ってしまう。その頃は、なぜか知らないが「他人を傷つけるより、傷つけられるほうがマシかもしれない」なとど考えていたせいで、どうしても謝らなければ、と思って、その男性を追いかけ、呼び止めた。
「足踏んだでしょ。」
すると、件(くだん)の男性は、俺に因縁つけるのかぁ、という引きつった顔になったので、あわてて、
「いえ、私があなたの足を踏んだんです、ごめんなさい。」
その男性は、こんな忙しいときにそんなことで呼び止めるな、このボケ!、とでも言うように、引きつった顔をさらに引きつらせて、何も言わず方向転換し、ボッとしている私を残して、眼前から去ったのだった。
謝りに行ったことが、よかったのか、悪かったのか、結論は出せなかったが、その後、しばらく私が悩んだのは言うまでもない。
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