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2006年5月24日 (水)

黒井千次 『春の道標 』 新潮文庫(1984)

 新制高校という言葉が耳新しかった頃。
 安保を巡る政治の季節を眼の隅に入れながら、文芸サークル「夜光虫」で仲間と詩作も試みる高校二年生の倉沢明史。彼には、長く文通を続けている一つ上の幼馴染、見砂慶子がいた。

 だが、ある時、慶子のほうからそれ以上のものを求める手紙が来る。そこに慶子自身によるエスカレーションを感じた明史の心は徐々に慶子を離れていく。
 そのうち、通学途上で出会う1人の少女の存在に明史は気が付き始める。その中学生、染野棗(なつめ)に、明史は加速度を増して惹かれていく。

 誰かを好きになるということは、そのすべてを知りたいと一途に願うことであった。ひとを好きになるということは、そのひとのいるすべての時と場所の傍らに、自分もいたいとひたすら念ずることであった。

 誰かを知ることで、己と世界が変わることを体験し、誰かを失うことで、己と世界のすべてもまた失われてしまうことを識る。その、青春のまばゆいばかりの光と翳。人生に一瞬訪れるだろう輝ける日々、そして絶望。

 それを思い出として持つ人も、またその予感を感じる人にも、一度手にして欲しい傑作。

黒井千次 『春の道標 』 新潮文庫(1984)

〔参照〕
少女
「恋愛」の新明解国語辞典的意味

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コメント

ゆきちゃん さん

いいえ。記事を気をかけて戴いて、コメントして戴けるだけで感謝です。私など、老婆(爺)心の塊です(-_-;

投稿: renqing | 2008年7月11日 (金) 02時19分

そうでしたか。老婆心なコメント失礼いたしました。

投稿: ゆきちゃん | 2008年7月10日 (木) 17時56分

ゆきちゃん さん、どーも

コメントありがとうございます。
実は、『黄金の樹』の話題に触れた記事があります。下記↓

「恋愛」の新明解国語辞典的意味
http://renqing.cocolog-nifty.com/bookjunkie/2007/04/post_fdff.html

ネタバレになりそうなので、内容の記事化は躊躇してしまいました。

恋の成就には、ようやく胸のつかえがおりましたが、あのまま明史の心に、ブラック・ホールをあけておいたままでもよかったような気もします。物語としては。なぜか知りませんが、そんな気もするのです。

私の中での、悲恋物語として、伊藤左千夫『野菊の墓』と双璧なので、そのままにしておいてもらいたい、という気持ちもあるかも。

淡い悲恋物語として、一葉の『たけくらべ』も好きな作品です。

投稿: renqing | 2008年7月10日 (木) 00時58分

あまり知られていませんが「黄金の樹」(1989年、新潮社)という「春の道標」の続編があります。こちらもお薦めです。

投稿: ゆきちゃん | 2008年7月 9日 (水) 15時29分

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