明治「憲法」の起源(2)
前回、岩波書店『日本近代思想大系』「9.憲法構想」(1989年)中、p.10に、
根本律法。今日の憲法のこと。加藤はのち明治元年刊の「立憲政体略」でも、一般の法律を「憲法」、今日の憲法を「大憲法」「国憲」と呼んでいるが、最高法規としての「憲法」の呼称が一般に定着するのは明治十年代半ば以降のこと
と頭註がされている旨、述べた。
同書p.438に、「大日本帝国憲法以前の憲法構想」なる、66個のリストがあり、そこに標題として〝憲法〟を掲げているものは、32個ある。最初期のものは、
竹下弥平「憲法意見」明治八年二月一日
とある。逆に、憲法案にもかかわらず、〝憲法〟なる標題を持たないものの最後は、
不明「日本帝国国憲ノ草案」明治十六年七月以前
となっている。
そこで、年代順に、〝憲法〟なるものを数えてみよう。
明治 8年 1
明治12年 2
明治13年 4
明治14年 16
明治15年 3
明治16年 3
明治19年 2
明治20年 1
明治14年が突出している。これは、自由民権運動中のいわゆる「国会開設運動」の最高潮期が明治13年(1880)なので、その高揚を受けて、全国的にドッと出たものと一応推測可能だろう。
ただ、一方で、〝憲法〟を言葉の面から探ると、こういうデータもある。
J.C.ヘボン(J.C.HEPBURN)著「和英語林集成」第三版 明治19年(1886)
上記の書から、〝憲法〟→ KENPO, KENPOU を拾うと、実はこれが見つからないのだ。ついでに言えば、〝権利〟→KENRI は、「 n. Natural rights ; prerogative 」とある。では、逆に、constitution から引くと、
〝constitution〟→「 Seishitsu, kumitate, jintai, sho, sho-ai, seitai, seiji ; horitsu, okite 」
となる。
そうすると、明治十年代後半になっても、constitution の訳語として、もしくは、人口に膾炙するものとしては、まだ〝憲法〟は定着していないことは言えそうだ。それよりも、constitution の概念なるもの、そのものが、一般庶民に全く理解不可能な代物であった可能性も否定できない。
もう少し資料を検討してみたいが、この続きは次回へ。
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