マックス・ヴェーバー『職業としての政治』(1919)(1)
マックス・ヴェーバーは、まことに人類史に残る知の巨人である。空恐ろしいほどの博識。歴史の綾なす錯綜した文献的事実から、考察課題を制御しつつ、相互に関連する問題群を帰納し、そこから有意味な命題を切り出す強靭な思考力。その有意味な命題を切り出すために、混沌とした史実を素材として、手ずから制御可能性を有する分析概念を次々と案出し、構成する独創性とその剃刀のような切れ味(ちと、凝り過ぎかな?、といえなくもない)。日本のアカデミズムに、かつて彼を本尊としてひれ伏すヴェーバー教徒が跋扈していたのも止むを得まい。それほどヴェーバーはすごい。ただし、彼自身は、思想家とはいえない。あくまで、学者、研究者として桁違いにすごいのだ。人文学(the humanities)における最高の学者は誰かと問われるなら、私は躊躇無く彼を推す。ま、私に推されても草葉の陰のヴェーバーが喜ぶとも思えないが。
このわずか百数ページの本には、そのマックス・ヴェーバーの一つの中核的業績(=「政治なるもの」の学問的分析)の精髄が圧縮されている。それを、現代の日本人読者は、岩波文庫で、税込み483円、古書店なら税込み105円で手に入れることができる。これもある意味すごいことだ。「神の恩寵」か(-:。
それにしても、この高密度の内容をいったい本当に、学生相手に、1、2時間で講演したのだろうか。一度、聞いただけでは絶対わからないだろう。請合ってもいい。それほど中身が濃い。このままでは、圧縮したファイルである。活字になって、註を付して、解説をつけて、という解凍作業をしないとまずは飲み込めない。ヴェーバーの語彙に熟達した専門家で、ようやく追いつける体のものだ。彼が操作する様々な分析概念一つ一つが、彼の怒涛のような知的エネルギーを封じ込めたものなのだから、如何ともしがたい。
いい加減、中身に入る前に長広舌を振るってしまった。ということで、中身については、次回以降に。
マックス・ヴェーバー『職業としての政治』(1919)
岩波文庫1980年 脇圭平訳
Max Weber, POLITK ALS BERUF, 1919
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