少女Ⅱ Something Childish but very Natural (1913)
マンスフィールド短篇集、幸福・園遊会、他十七篇、崎山正毅・伊沢龍雄訳、岩波文庫1989年(赤 256-1)
、pp.60-61、「子供らしいが、とても自然な」より、この原題は、コールリッジ(Samuel Taylor Coleridge)の同名の詩にちなむ。
ヘンリーは、そのちょっとした動作も心にとめて、彼女を見つづけました。彼女は、窓にぴったりよりそって、腰をかけていました。彼女の頬と肩は、房々とカーヴした金盞花(きんせんか)のような色と髪で、なかば、かくれていました。灰色の木綿の手袋をはめた片手は、その上にE・Hと頭文字のある革のバッグを膝の上にさささえていました。片手は、窓のつり皮に通していましたが、その手首に、銀の飾り環がはまっていて、それにスイスの牛につける鈴と、銀の靴と、魚がついていました。彼女は、緑色の上衣(うわぎ)を着て、花環の飾りをまいた帽子をかぶっていました。これらの様子を見ている間、ヘンリーの頭には、新しい詩の題「子供らしいが、とても自然な」-というのが、こびりついて離れませんでした。「ロンドンのどこかの学校に通っているのだろう。」とヘンリーは考えました。「オフィスで働いているのかもしれない。いや、それにしては年が若すぎる。それに、もしそうだったら、髪を上げているにちがいない。肩のあるところまであることはない。」彼は、その美しいカーブしている髪から目をそらすことができませんでした。「『わが眼は酔いしれたる二匹の蜂のごとし、・・・・』さあ、こんな文句を見たことがあったかな、それともこちらの創作かな?」
原題 Something Childish but very Natural (1913)
…, and then Henry, careful of her slightest movement, went on looking. She sat pressed against the window, her cheek and shoulder half hidden by a long wave of marigold-coloured hair. One little hand in a grey cotton glove held a leather case on her lap with the initials E. M. on it. The other hand she had slipped through the window-strap, and Henry noticed a silver bangle on the wrist with a Swiss cow-bell and a silver shoe and a fish. She wore a green coat and a hat with a wreath round it. All this Henry saw while the title of the new poem persisted in his brain—Something Childish but very Natural. "I suppose she goes to some school in London," thought Henry. "She might be in an office. Oh, no, she is too young. Besides she'd have her hair up if she was. It isn't even down her back." He could not keep his eyes off that beautiful waving hair.
"My eyes are like two drunken bees...' Now, I wonder if I read that or made it up?"
参照
マンスフィールド短編集(新潮文庫1979)
キャサリン・マンスフィールド「パーカーおばあさんの人生」
少女Ⅰ:『春の道標』黒井千次 1981年
少女Ⅲ:『巣立つ日まで』菅生 浩 1974年
少女Ⅳ:『野菊の墓』伊藤佐千夫 1906年
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