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2006年9月12日 (火)

少女Ⅳ

 民子が体をくの字にかがめて、茄子(なす)をもぎつつある其横顔を見て、今更のように民子の美しく可愛らしさに気が付いた。これまでにも可愛らしいと思わぬことはなかったが、今日はしみじみと其美しさが身にしみた。しなやかに光沢のある鬢(びん)の毛につつまれた耳たぼ、豊かな頬の白く鮮かな、顎(あご)のくくしめの愛らしさ、頸(くび)のあたり如何にも清げなる、藤色の半襟(はんえり)や花染の襷(たすき)や、それらが悉(ことごと)く優美に眼にとまった。そうなると恐ろしいもので、物を云うにも思い切った言(こと)は云えなくなる、羞(はず)かしくなる、極りが悪くなる、皆例の卵の作用から起ることであろう。

伊藤左千夫 『野菊の墓』  明治39年(1906)1月『ホトトギス』 
 ( 新潮文庫版 昭和30(1955)年 )

参照  木下恵介「野菊の如き君なりき」(1955)

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