“旧型”インフルエンザに「タミフル」を使うべきではない(総括・事実編)
ここらへんで、総括を書いておこう。
現在のrenqingが、接し得たところの事実(報道)、知見と、それに基づくrenqingの意見をまとめると以下のようになる。
◎事実に関すること
1)「タミフル」について
①薬効
現在のところ知られているインフルエンザ(これを旧型と呼ぶことにする)の治療に、抗ウィルス剤「タミフル」はかなり有効である。
投与のタイムリミットは、発症から48時間以内。ウィルスがこれから増える、というタイミングに投与すると著しい効果を示す。「タミフル」による 治療経験の多い小児科医、内科医が、「タミフル」を確信を持って支持するのは、この「劇的」な回復を目の当りにしているからである*。
*「タミフル」はインフルエンザ・ウィルスに効く、の医師サイトからの引用、参照。
②副作用
臨床実験では確認できていないとしても、未知の副作用の存在を完全に否定することはまだ無理だろう。参考に、異常行動に関する報道記事を3種類に分類しておく。
・インフルエンザへの処方として、「タミフル」服用→異常行動
「タミフルは、昨年度だけで副作用の疑われる事例が1763件報告された。うちベランダからの飛び降りなど極めて異常な事例が23件。」
「タミフル」は何に効くか(2007/04/15)、より引用記事参照。
・インフルエンザだが、タミフルを服用せず→異常行動
「先月29日、インフルエンザと診断された横浜市の中学2年男子(14)が、自宅2階
から転落した。けがはなかったが、意識が朦朧(もうろう)とし、庭をはだしで歩いていたところを父親に発見されたという。問題は、この少年が「タミフル」
(販売元・中外製薬)を服用していなかったことだ。先月17日にもタミフルを服用していないインフルエンザの14歳男子生徒が自宅2階から飛び降りて骨折
したケースがあり、相次ぐ少年の異常行動が、タミフルの副作用とばかりも言えなくなってきた。」
同上、参照。
・インフルエンザではないのに、「タミフル」処方→異常行動
「インフルエンザ治療薬「タミフル」を服用後に異常行動を起こした子供の症例の
中に、その後の検査でインフルエンザでなかったと診断されたケースがあることが28日、分かった。タミフル服用後の異常行動をインフルエンザによる影響と
みる指摘があるが、インフルエンザでない子供が異常行動を起こしたことで、議論を呼びそうだ。
タミフル輸入販売元の中外製薬によると、この症例
は昨年3月、都立八王子小児病院で診察を受けた9歳女児のケース。39度の発熱があり開業医で受診し、風邪と診断されてタミフルと風邪薬を処方された。
夜、タミフルを1回分服用して就寝した約2時間後に、急に起きあがり家の外に飛びだそうとしたため家族が押さえつけ、数分で異常はおさまったという。
約1時間後に同小児病院で受診したが、言動に異常はなく、インフルエンザの検査は陰性だった。診察した久保田雅也医長(小児神経)が中外製薬に副作用が疑われる症例として報告した。
厚労省は中外製薬から報告のあった約1800件の副作用が疑われる情報を詳細に調査中で、このケースについても「専門家に審議してもらう」としている。
タミフルに詳しい「けいゆう病院」(横浜市)の菅谷憲夫小児科部長は「インフルエンザにかかわらず、他の病気でも高熱が出ると起きあがったり、叫んだりする異常行動はある。タミフルの服用との因果関係については判断が難しい」と話している。」
インフルエンザ陰性でも異常行動 タミフル服用後に9歳女児、産経新聞(03/28 20:27)、より
ここで、renqingがごく最近、知った例を紹介しておこう。中学2年生、女子、この2月に症状らしきものが出たので、医師にかかりインフルエンザと診 断され、「タミフル」を処方される。自宅2階の自分の部屋で安静にしていたところ、突然起きだし、1階居間に下りてきて、いろいろなものをゴミ箱に放り込 み始めた。本人は、起きて1階に降りてきたまでは覚えているが、それ以降は全く記憶していない。
この項最後に、現時点での厚生労働省の副作用に関する見解を引用しておく。長文で恐縮だが、医療機関向けのアナウンスのため、当該ページにリンクをつけるだけでは見つけにくいと思われるので、念のため貼り付けておくことにする。
貼り付け開始
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インフルエンザQ&A 医療従事者(国立感染症研究所感染症情報センター)
D.リン酸オセルタミビルと異常行動の関連
2005
年11月に開催された第36回小児感染症学会総会において、リン酸オセルタミビル服用後の異常行動に関する報告がなされました。これに対して米国食品医薬
品局(FDA)は、同学会で発表された症例を含むリン酸オセルタミビル内服後の小児死亡例に関して、報告された小児死亡とリン酸オセルタミビルとの間に因
果関係があるとは結論づけられない、との見解を示しました。日本小児科学会も、リン酸オセルタミビルとこれらの死亡についての因果関係が明らかなものはな
いものの、今後も十分な市販後調査の継続と適切な公表を望むとしています。さらに、2006年11月に開催された第37回小児感染症学会における厚生労働
省調査研究班(横田ら)の発表によれば、全国12都県の小児科医に対して行った調査で、医師
2,846件、患者・家族2,545件の回答から、リン酸オセルタミビルと異常言動との関連性は、リン酸オセルタミビルを使用しなかった群の発現頻度は
10.6%、リン酸オセルタミビルを使用した群の発現頻度は 11.9%で、有意差を認めなかったとしています。
しかし一方で、リン酸オセルタミビル内服後早期に興奮状態に至ったという症例も同学会で報告されており、現在も継続して調査が実施されています。ま た、 2006年11月13日に米国食品医薬品局(FDA)は、リン酸オセルタミビルと異常行動についての因果関係ははっきりしていないが、リン酸オセルタミビ ル服用後しばらくの間に異常行動がでる可能性も考えて、インフルエンザ患者、特に小児においては、経過中異常な行動がでないかどうか、きちんと経過観察し ておくべきであると報告しています。
本邦におきましては、2007年2月28日に厚生労働省より、以下のような注意喚起がインフルエンザ治療に携わる医療関係者に対して行なわれまし た。『万が一の事故を防止するための予防的な対応として、特に小児・未成年者については、インフルエンザと診断され治療が開始された後は、タミフルの処方 の有無を問わず異常行動発現のおそれがあることから自宅において療養を行う場合、異常行動の発現のおそれについて説明すること、少なくとも2日間、保護者 等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮すること』
その後、3月20日、厚生労働省は、以下のような内容で薬剤会社に対して、緊急安全性情報の発出および添付文書の改訂を指示しています。『10歳以 上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。このため、この年 代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。また小児・未成年者については、 万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、異常行動の発現のおそれがあること、自宅において療養を行う場合、少 なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて患者・家族に対し説明を行うこと。なお、インフルエンザ脳症等によっ ても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。』
リン酸オセルタミビルと異常行動に関しては、今後の更なる調査と広い情報収集、および注意深い解釈が必要であると考えられます。
厚生労働省 医薬食品局安全対策課 タミフル服用後の異常行動について(緊急安全性情報の発出の指示)
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貼り付け終了
③使用頻度の欧州と日米の違いに関して
「タミフル」は、現時点で旧型インフルエンザの特効薬と見なせるにも関わらず、日米と欧州の間で、その使用量に顕著な違いがあることも報道されている。
「 ところが、開発元のロシュ社(スイス)によると、99年にスイスと北米での販売が始まって以降、世界中でタミフルの投与を受けた約5000万人のうち、実に約3500万人が日本、約1000万人が米国だった。
そもそも欧米諸国では従来のインフルエンザで投薬治療することは少ないため、日本のようにタミフルの大量消費もなく、その分、服用後の異常行動も問題に
なっていない。スイス東部シュビーツ州の開業医、アレン・シーグバルトさん(48)は「タミフルを処方することはほとんどない。高齢者など合併症が心配な
患者以外は、まずは1週間ほど休養を取ることが基本だ」と語る。」
インフルエンザに効く薬はない(リンク追加)、より引用記事参照
④WHO(世界保健機構)他、のこれまでの声明、推奨。
日本における、「タミフル」関連の異常行動騒ぎに関して、WHOではこうコメントしている。
「日本での異常行動多発の動きを受けて、欧州連合(EU)はタミフルに添付される注意書きに危険性を記す方針を打ち出し、韓国も10代患者への投与
を自粛する方針を決めた。しかし、世界で少なくとも数百万人が死亡すると予測される新型インフルエンザに向けた備蓄強化を見直す動きはなく、世界中で「タ
ミフル不足」が続いている。
生産能力を大幅に増強したロシュ社は現在、年間4億人分のタミフルを生産するが、薬の有効期限は5年。世界中の人に
行きわたらせることは現実的には不可能だ。WHOのハートル報道官は「タミフルを備蓄に回すか、治療に使うかは各国が判断すべき問題。ただ、多くの国は従
来のインフルエンザ治療には使わず、新型用の備蓄に回しているようだ」と語る。」
同上、中の引用記事参照
また、WHOの専門家もこう発言している。
「こうした日本の姿勢に対し、WHOの新型インフルエンザ対策部門スタッフは個人的見解と断ったうえで、「従来のインフルエンザなら若い人には基本的に投薬は必要ない」と冷ややかにみる。」
同上、中の引用記事参照
その一方、WHOは、「タミフル」を新型インフルエンザに対処するための唯一の治療薬として以前から位置づけ、備蓄の必要性を訴えてきていた。
貼り付け開始
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WHO、タミフル備蓄計画変えず…新型インフルエンザに効果(産経新聞、03/24 00:32)
インフルエンザの治療薬タミフル服用後の異常行動が報告されている問題で厚生労働省は10代患者への同剤投与の見直しを打ち出したが、世界保健機 関(WHO)は近く、世界的な流行が懸念されている新型インフルエンザ対策としてのタミフル備蓄計画をこれまで通り変更する予定はないことを発表する。 (杉浦美香)
高病原性鳥インフルエンザウイルスの人への感染が東南アジアを中心に拡大。同ウイルスの変異により新型インフルエンザ発生の可能性が高まっている ため、WHOは「新型」でも効果があるとされるタミフルの備蓄を勧めており、ロイター通信によると、日本を含め世界75国が備蓄に取り組んでいる。
タミフルはインフルエンザウイルスの増殖を抑える薬で、スイスの製薬会社ロシュが販売している。日本での薬価は5日分3164円、海外では同約 20ドルだ。欧米では1週間ほど安静にしていれば治る通常のインフルエンザでは安易に服用しないのが一般的だ。その一方で、発展途上国ではタミフルを備蓄 する余裕がないというのが実情だ。
しかし、日本では国民皆保険制度で誰もが容易に医療を受けられることや、風邪などで学校や勤務を休むことを嫌う国民性のためか、年間約860万人 に処方されている。世界一のタミフル消費国だ。これに伴って異常行動の報告のほとんどが日本に集中、米食品医薬局(FDA)やカナダが昨年11月、服用に 際しての注意喚起を指導する根拠となった。
WHO関係者は「新型インフルエンザは通常のインフルエンザより症状が重く別と考えた方がいい」としており、新型インフルエンザ対策の備蓄計画に変更はないことを確認する予定だ。
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貼り付け終了
新型インフルエンザに対して、WHOがいかに強い危機感を持っているかは、下記のアピール、アナウンスを読んでいただきたい。
・Ten things you need to know about pandemic influenza(14 October 2005)
・Responding to the avian influenza pandemic threat
Recommended strategic actions(WHO/CDS/CSR/GIP/2005.8)
⑤「タミフル」の特許所有企業の大株主は、ラムズフェルド前米国国防長官であること
一方で、この件に関して、日本で積極的に報道されているとは言えない。renqingは、この件をWikipediaの記事から知った。「タミフル」と
「ドナルド・ラムズフェルド」の二つの項で触れられていて、それぞれその部分について、異論ノートは付されてないので、一応信頼してよいだろう。
「インフルエンザ特効薬タミフルの特許を所有しているバイオテック企業ギリアド社の会長を1997年から2001年の間つとめ、また、ギリアド社の
株式を多数保有している。トリインフルエンザ拡大によるタミフル争奪戦により、ギリアド社株式によって巨額の富を築いたとCNNは報じた。」
ドナルド・ラムズフェルド、より
*ギリアド社のサイトにも明記してあることを、知人より指摘を受けた。感謝。以下、参照。
Gilead -- Donald H. Rumsfeld Named Chairman of Gilead Sciences
以上、事実編とする。意見編は、次回、掲載する。
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