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2007年9月27日 (木)

「啓蒙」雑考(1)

 知人より、一つ尋ねられたことがあった。ただ、恥ずかしながら私も俄かに答えることができなかったので、ざっと調べてみた。そこで、少々興味深いことが分かったので、自blogで開陳しておくことにする。

1)〔質問内容〕「enlightenment」を、「啓蒙」と日本語訳したのは誰か。西周か。

 明治前半の翻訳事情を調べるのに第一次接近として有効なのは、当時の辞書の記載を探ることである。手許に、

J.C.ヘボン、和英語林集成、1886年、講談社学術文庫版(1980年)

があるので、まずはそれを引いてみる。すると、こうある。

 Enlightenment    Bummei

つまり、文明、と訳されているのがわかる。確かに、英文脈の「暗いところをよく見えるように光で照らしだす」からすれば納得しやすい訳語だ。

 逆に、Keimou(Keimoo) 啓蒙、で探そうとすると、この見出し語はない。この辞書は、幕末・明治初期にかけて広く用いられたものであることを考えると、少なくとも、明治20年代前後には、「enlightenment=啓蒙」という対応関係はまだなかったと考えてよさそうだ。

 次に、哲学用語の翻訳となると、先の質問でもあるように、西周あたりに疑いの目が行く。そこで西の著作やら周辺を洗ってみたが、よく分からん。『百学連関』あたりを見たいのだが、気楽にアクセスできない。念のため、その著作を見直すと、西には、

西周、致知啓蒙、1874年

なる著作があった。ただし、この場合の「致知」とは、西による logic の訳であり、「啓蒙」は、漢文脈の「おろかな人、知識の浅い人の心を開き、教え導く。発蒙に同じ。」(角川新字源)であって、つまりこの著作は、論理学入門、なのであった。

 次に怪しいのは、井上哲次郎大先生である。井上大先生には、有名な哲学辞典がある。版毎に改定されていて、それを二つばかり追ってみた。

井上哲次郎、哲学字彙、改訂増補(有賀長雄増補)、東京:東洋館、1884年

 この版では、

Enlightenment  大學(宗)、文化

とある。もう一つ。

井上哲次郎等著、哲学字彙、東京:丸善、明治45年(1912年)

Enlightenment  智的獨立、迷信排除、文華、文明、大學(宗)

 なるほど。現代の「啓蒙」像と同じだ。ただ、肝心の「啓蒙」なる訳語が与えられていないが。

 と、ここまで気を持たせておいて、結論は次回に。

〔参照〕

「啓蒙」雑考(2)

「啓蒙」雑考(補遺)

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