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2007年12月 7日 (金)

自然状態(state of nature)について(2)

 大道安次郎「近代自然法」、新版 社会思想史事典 新明正道編著 創元社(1961年)、pp.114-115、より

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自然状態(State of nature, natural state)

 近代自然法論に共通に見られる理論は、国家の成立以前に社会を認め、国家をもって何らかの意味において社会のうちから、あるいは社会から後行的に発生したと説く点にあるが、そのさい国家以前の社会にあたるものを自然状態と見るのが一般のようである。しかし、この自然状態が社会としてとらえられるか、あるいは社会の形をなしていない単なる人間の無秩序な状態として見るかは、論者によって必ずしも同じではない。グロティウスは自然状態をソキエタス(Societas)としてとらえている。彼は自然状態は共同の理性と言語に根ざした社会性にもとづいた自然法の支配のもとにあると観念した。そこには家族を中心とした平和な人間関係がある。このような自然状態は社会(ソキエタス)であり、国家としてのキヴィタス(Civitas)と区別されている。プーフェンドルフもソキアリタス(Socialitas)としてとらえ、無形式的な、しかし相互的な交通の存在する社会としてとらえている。ルソーは『人間不平等起源論』において、二つの自然状態を構想した。一つは純粋の自然状態であり、他は社会的な自然状態である。以上は自然状態を国家以前の社会と見る例であるが、これに対して全然社会と見ない論者もいる。これは主として近代自然法論の後期に見られるものであって、この場合には、自然状態では社会をもつことのなかった人間が社会契約を結ぶことによって社会状態に入り、国家はこの社会の成立をまってのち初めて服従契約によって成立するというのである。このさい、社会の成立が国家の成立、すなわち社会と国家とを等置するか、あるいは社会の成立後に国家の成立すると見るかについて、議論が分かれるが、いずれにしても自然状態はそれ以前の状態であり、社会のない状態であるとなす点では共通している。

 つぎに自然状態を平和的なものと見るか、闘争的なものと見るかについても議論が分かれる。これは人間性を単なる利己的なものと見るか愛他的なものと見るかに起因するともいえる。その点は別として、自然状態を闘争ないし悲惨な状態と見る代表者は、ホッブスをあげることができる。彼の「万人対万人の闘争」、「人間は人間に対して狼である」という言葉は有名である。平和的なものとしてとらえた代表者は、ロック、ルソーとをあげることができる。

 ところで国家や社会以前に自然状態を構想することは、人間の原始状態を考えるとき当然のようにも思えるが、しかし現代においてはかかる自然状態を設定することは、全くしりぞけらている。否、すでに十八世紀後半において早くも、それは仮空な議論であり、単なる擬制にすぎないものと非難されていたのである。ヒューム、ファーガスン*、スミスなどがその代表者である。たとえば、ファーガスンによれば、人間は生まれながらにして社会のなかにあるものであるから、原始時代においても、たとえそれが小規模であるとしても、人間は社会のなかに生活しており、したがって自然法論の説く孤立的な自然人、社会のない自然状態は単なる擬制に過ぎないと断定しているのである。

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*Adam Ferguson(1723-1816),  An Essay on the History of Civil Society (Cambridge Texts in the History of Political Thought) (1767), A philosopher and historian of the Scottish Enlightenment.

〔参照〕自然状態(state of nature)について(1)

続く(予定)

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