未来を予言する最良の方法は、未来を作ってしまうことだ(2)
「それではなぜ「アメリカの夢」という言葉に物質主義的な第二の意味が生じたのであろうか。それはアメリカ人が近代ヨーロッパが生んだある種の唯物論に感化され、広大な機会とフロンティアの国でそれを制約なしに実践してきたせいである。この唯物論の発端はデカルトとベーコンにある。デカルトは命題 「我思う、故に我在り」によって、知を自己を創造的に定立する一種の行為とみなす近代合理主義の基礎を作ったが、このような知のモデルとなったのは、構成する行為としての数学的な知だった。明晰判明な真理を求めてデカルトは、理性を方法によって確実な成果を生み出す道具に、人間を理性という道具を使う主体にし たのであって、彼においてもベーコンやジャンバティスタ・ヴィコと同様に、知を知的生産とみなす見解が潜在していた。こうした哲学はやがて特殊に近代的労働の概念を生み出し、さらには歴史を、自己を生産する主体としての人間の成果とみなすヘーゲル的な歴史哲学につながってゆく。この意味ではマルクス主義は、近代の生産主義的唯物論というべきものの極致だったのである。
ボルシェヴィキがこの唯物論を神学的教義として信奉したのに対し、アメリカ人はこれを、理屈抜きにビジネスとして実践することでロシア人を出し抜いた。」
関曠野『国境なき政治経済学へ』社会思想社(1994年)、p.5、 (引用者注 下線、フォントカラーは引用者による)
「未来を作ってしまう」というのは、まさに引用中の「歴史を、自己を生産する主体としての人間の成果とみなすヘーゲル的な歴史哲学」そのものであ り、米国人 Francis Fukuyama が Hegel を持ち出すのは、米国特有の心性史的文脈に沿うものとして了解可能ということでもある。
また、最も米国的な哲学といえる、pragmatism の偉大な預言者たち、Charles Sanders Peirce、William James、John Dewey が、それぞれ Hegel に重大な理論哲学的関心を示していることを、この大陸国家の心性史の文脈から検討することは、興味ある課題かも知れない。
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