「困ったこと」から考える(1)
個人でも、組織でも、はたまた国家でも、順風満帆に日々を過ごせることは、そう滅多にない。大抵は、なにかしら「困ったこと」に頻々として遭遇し、それとの悪戦苦闘の連続というのが世の実相だと思われる。
当然、誰しも「困ったこと」に逢着すると、その解決を意図する。そして、考えたり、自分なりに幾つか解決策を試みたりする。
すると、その「困ったこと」の「困った」度が、当の解決策の効果によって低減する場合がある。また、その「困ったこと」自体の何らかの時季性により、自然に「困った」度が低減して、とりあえずやり過ごせるようになったりする。
ここで試みるのは、この「困ったこと」からなにか教訓を引き出せないか検討することである。
さて、「困ったこと」の解決を図ろうとするときには、以下のような手順を踏むことが望ましい。
Ⅰ.その発生の原因(理由)を考える。
Ⅱ.もし、いくつかの原因が複合しているものなら(大抵はそうだ)、その「困ったこと」への寄与率を考え、順位をつける。
つまり、原因A、B、C、とあり、それぞれ、「困ったこと」への寄与率が、例えば
原因A 50%
原因B 30%
原因C 20%
と、評価するわけだ。これを、いちいち、「困ったこと」への寄与率、と呼ぶと煩わしいので、簡単に、トラブル度、と言っておくことにする。
Ⅲ.その原因を除去できるか、考える。そして、除去可能性の程度(困難性)、簡単に言えば、原因除去に要するコストを考え、やはり順位をつける。例えば、
原因A 50
原因B 25
原因C 15
である。無論、貨幣換算できない部分(メンタル的なもの)も含めての相対評価で結構。
Ⅳ.その諸原因のあいだの、トラブル度順位、コスト順位の組み合わせを考えてみる。
つまり、こうである。
とりあえず、三つの原因中、二つは片付けようと方針を決める。すると、以下のような計算が可能となる。
ⅰ.(A,B)→ トラブル度 50+30=80 コスト 50+25=75
ⅱ.(A,C)→ トラブル度 50+20=70 コスト 50+15=65
ⅲ.(B,C)→ トラブル度 30+20=50 コスト 25+15=40
もう瞭然ではあるが、念のため、トラブル度をコストで割ったものを、処理効率として指標を計算すると、
ⅰ.1.067
ⅱ.1.077
ⅲ.1.250
となる。
Ⅴ.さて、以上をどう評価するか、という局面にきた。
ⅰは、「困ったこと」の80%を除去できるのだから、かなり魅力的だ。しかし、コストもバカにならない。ⅱは、70%除去できるが、コストも今ひとつかかる。ⅲは、最も低コスト(ⅰの0.53倍)で、「困ったこと」の半分を片付けることが可能だ。
ここで選択すべきは、やはりⅲだろう。着手するのにそれほど苦にならず、意外に解決に貢献する。それならやらない手はない、ということになる。
Ⅵ.当座の結論
世の中に、「困ったこと」の根本的解決を求めたがる心情は多分にある。しかし、根本的解決はたいてい高コストであり、不効率な場合もしばしば存在する。その一方で、慎重に考えれば、その結構な部分を(この例なら半分程度)、比較的、迅速安価に効率よく処理することが可能な場合もあるはずなのだ。後者は、これを「解決」とは評価されない向きもあるかもしれない。だが、根本的解決ができないのなら放置する、という態度よりは健全というものだろう。
そして、しばしば、このような費用対効果が高い=処理効率のよい解決策に対応する原因は、「困ったこと」に関わる我々の側にあることが多いのだ。
実は、このことを書こうして、書き始めたら、以前から考えていることを思い出し、ここまで書いてしまったという楽屋落ちなのだが、ま、長くなったので、この記事を(1)として、次回に先送りする。
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