縮小に向かえ!?「自由貿易」(2)
前回記事のバルチック海運指数の説明にある通り、この指数は、不定期船運賃の変動を表している。したがって定期船運賃ではない。つまりスポット(当用)的な傭船に対する需要変動を表しており、それだけ世界的な景気変動の先行指標となる訳だ。
そこから逆に、現在、世界貿易がまだそれほど変化の兆しがあるように思えない理由もわかる。つまり、今、盛んに輸出入されているのは、中長期的な輸出入契約済みの実行分なのだ。
するとこの契約履行分が完了するとどうなるのか。
貿易実務や銀行で外為業務に携わったことのある方なら先刻ご承知のように、海外から輸入するためには、取引銀行に輸入信用状の開設を依頼しなければならない。つまり、輸入するためには、銀行から輸入信用状という債務保証をしてもらわねばならない。そして、この輸入信用状の開設は、銀行からすれば与信行為であり、BIS基準からすると銀行資産の膨張となる。
一方で、現在、世界中で銀行のバランスシートは毀損し、痛んでいる。債務は額面評価で変わらないのに、資産は時価評価であり、世界的な有価証券価値の下落で、どこの銀行も債務超過に転落しかねない。そこでもしBIS基準の自己資本率を維持しようとすれば、総資産の圧縮が至上命題となる。当然、銀行は、輸入信用状の開設を渋るだろう。そもそも、銀行間資金取引がマヒ状態のままなのだ。
まとめると、景気悪化のために、自由貿易が縮小するだけではなく、今般の金融危機による世界的な信用収縮を受けて、自由貿易が途絶に向かって亢進しているということになるわけである。
そのうえ、来年からあたり表面化する米政府の財政危機で、場合によっては、米政府のデフォルトさえあり得ないことではない。すると至極当然にドルは紙切 れとなり、世界的な債権債務の決済は大混乱となり、ますます自由貿易は維持できなくなる。このたび、早速、日本政府も6年ぶりに会計年度途中に税収不足を補うため、6兆円の国債増発を補正予算に組むとのことだ。
さて、以上は単なる悲観主義者の悲観的観測なのであろうか。あわてずとも、この数年で明らかになろう。
※エマニュエル・トッドのヌーベル・オプセバトゥール記事を全訳されているブログがありました。下記。ご参考まで。
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