グローバリゼーションの次は何か
「 ここまで貿易の歴史を振り返ってきたが、そこからいくつかの結論を引き出せよう。
(1)まず貿易は長らく経済的には周辺的な現象にすぎなかった。
(2)民衆は常に安定した地域的自給の生活で満足していた。民衆が貿易を要求して暴動を起こしたとか自給していた民族がその惨めさに耐えかねて貿易を始めたといった話は聞いたことがない。
(3)どこでも貿易は富と権力のある特権層により特権の維持と拡大を目的として推進された。その最近の露骨な例としては天安門事件で権力の正統性が揺らいだ中国の共産党政権による自給から貿易への体制転換がある。
(4)現代の貿易の特徴は生活様式の絶えざる創造的破壊とそれによる市場の無限の拡大にある。
(5)さらにこの貿易は、共同体や自然に制約されることなく自由な選択によって欲望の極大的な満足を追求する個人というリベラルな個人主義イデオロギーと一体になっている。必要な物資の互恵的な交換はこの貿易の本来の目的ではない。」
関曠野「貿易の論理自給の論理」より、本書pp.31-32
「・・・。問題は農民以外の人々も含めて地域の住民が人間らしい生活に必要な基本的な資源と物資を自分たちで管理することである。民主主義の要は選挙の有無にではなく、そうした生活様式に関わる地域住民の自治にある。ゆえに貿易と自給をめぐる議論は最後には民主主義の再定義という問題に行き着くのであ る。」同上、p.36
近世日本の徳川時代は、基礎資源である、穀物や木材等の輸入がほぼゼロで、総人口3600万人を維持していた。上記の視点からその人類史的意味を検討する必要があると思う。
上記以外にも刺激的な文が詰まっている。広くお薦めする次第である。
なお、関曠野氏の講演がある。下記。
第2回ベーシック・インカム(基礎所得保証)入門の集い
「生きるための経済 なぜ所得保証と信用の社会化が必要か」
山崎農業研究所編『自給再考―グローバリゼーションの次は何か』山崎農業研究所(発売=農村漁村文化協会2008年)
目次
西川潤 世界の「食料危機」―その背景と日本農業にとっての意味
関曠野 貿易の論理自給の論理
吉田太郎 ポスト石油時代の食料自給を考える―人類史の視点から
中島紀一 自然と結びあう農業を社会の基礎に取り戻したい―自給論の時代的原点について考える
宇根豊 「自給」は原理主義でありたい
結城登美雄 自給する家族・農家・村は問う
栗田和則 自創自給の山里から
塩見直紀 ライフスタイルとしての自給―半農半Xという生き方と農的感性と
山本和子 食べ方が変われば自給も変わる―自給率向上も考えた「賢い消費」のススメ
小泉浩郎 輪(循環)の再生と和(信頼)の回復
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コメント
前田昭彦です。
すっかり、ご無沙汰、不義理申し上げ
ています。
コメントではありません。
至急、連絡をとりたいのですが
メールアドレス宛、または
私の自宅電話に連絡いただけたら幸いです(ここ10年変わっていません)。
住所は承知しておりますが、
私の住所録の電話番号がボツでした。
投稿: 前田昭彦 | 2009年1月16日 (金) 23時00分