坂野潤治+大野健一『明治維新 1858-1881』講談社現代新書(2010年)
第2部が、本書の白眉といえます。ここは抜群に面白い。特に、土佐の後藤象二郎、薩摩の伊地知正治の位置づけについては、大いに教えられました。
とりわけ、伊地知が軍部から議会に籍を移してしまったことは重要な点で、月曜会事件とともに、その後の陸軍において山県をモデルとする軍政家タイプばかり
が幅をきかせ、伊地知タイプの怜悧な軍事テクノクラートが軍部で力を持てない伝統ができてしまったことが、その後の軍部の政治的肥大化を招来することにつ
ながったように思えます。
第3部は、概説的でそれほど面白くない。また、徳川政権の経済政策に関して、「幕府の産業政策の後進性」とまとめていますが、これは少々いただけない。私の別記事で書きましたが、平川新『開国への道』(小学館日本の歴史第十二巻2008)
第四章「世論政治としての江戸時代」の灯油市場に関するケース・スタディを踏まえたら、そんなことは軽々に言えないでしょう。少し中身が薄い気がします。
私にとり、広範囲に支持を受けていた幕末議会論(本書でいう封建議会論)が何故挫折したのか、どうしても腑に落ちなかったのですが、第2部の分析で土佐グループが二派に分かれたことに起因する、との指摘で一応納得できたことが最大の収穫でした。もし、土佐グループが二極化せずに、幕末議会論でまとまっていけば、日本の近代史はかなり変わったものになったろうと、残念でなりません。
第2部を読むだけでも、740円を払う価値あり。ということで、必読。
坂野潤治+大野健一『明治維新 1858-1881』講談社現代新書(2010年)
目次
まえがき(大野健一)
第1部 明治維新の柔構造
1明治維新というモデル
2柔構造の多重性
3明治維新の指導者たち
4政策と政局のダイナミズム
4-1封建商社と封建議会(1858-68)
4-2変革の凍結(1871-73)
4-3殖産興業と革命の継続(1873-75)
4-4崩壊の危機を救った封建議会(1875)
4-5殖産興業路線の勝利と挫折(1876-80)
4-6憲法派と軍部の復権(1880-81)
4-7変革の終焉(1881以降)
5変革をもたらした条件
第2部 改革諸藩を比較する
1越前藩の柔構造
2土佐藩の柔構造
3長州藩の柔構造
4西南戦争と柔構造
5薩摩藩改革派の多様性と団結
6薩摩武士の同志的結合
7重構造の近現代
第3部 江戸社会――飛躍への準備
1日本社会の累積的発展
2近代化の前提条件
3幕末期の政治競争とナショナリズム
あとがき(坂野潤治)
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コメント
jchz様
こちらこそ宜しく。
投稿: renqing | 2010年2月23日 (火) 00時23分
同じ本の書評にコメントとTBありがとうございました。「第2部を読むだけでも、740円を払う価値あり」に私も全く同意です。今後ともどうぞよろしく。
投稿: jchz | 2010年2月22日 (月) 19時47分