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2010年11月24日 (水)

川北稔『イギリス近代史講義』講談社現代新書(2010年)〔その1〕

 この川北の新著は重要である。アマゾンのカスタマーレビューや、ネット上での書評をチラっと見たが、レビューとは名ばかりの浅いお手軽なものばかり。ソフトな語り口、新書という体裁から甘く見ているとしか思えない。

 この本にこめられている最大のメッセージは、「経済成長は終わった」である。著者川北が、彼の50年におよぶ近世イギリス経済史、近世西欧経済史研究から導き出した結論は、

 しかし、つねにそれまでより、よい生活をしなければならないという考え方が、資本主義の別の意味での定義なのではないか、と私は思っています。(p.66)

である。そういう心性を川北は「成長パラノイア」と呼ぶ。パラノイア paranoia すなわち、頑固な妄想を持ち続けている病(やまい)、だと川北は断じているのだ。昨年、せっかく自民党の長期独占・成長パラノイア政権から民主党政権に交代したというのに、菅直人政権が掲げているのは、相も変わらず「新成長戦略」である。この一事をもってしても、自民党から民主党へ、根本的な事柄にはなんの変化もないことになる。

 一つ注目点を挙げておけば、17世紀の政治算術(Political Arithmetic)と成長パラノイアの関連を指摘していることだ。これは、私がめざす、近世徳川国制史となかなか意味深長な共鳴を起こす。なぜなら、 列島史上初めて人口調査を大規模に行ったのが、18世紀初頭の第八代将軍徳川吉宗であり、彼は砂糖などの輸入代替政策なども実施し、今で言えば科学技術振興なども行っているからだ。

 関連することは多岐にわたり、疑問点も幾つか存在するので、稿を改めて論じることにする。

※一応、〔その2〕 〔その3〕 〔その4〕 〔その5〕 〔その6〕、まで書いたので、ご笑覧あれ。

川北稔『イギリス近代史講義』講談社現代新書(2010年)

目次
プロローグ 歴史学は終わったのか
第1章 都市の生活文化はいかにして成立したか――歴史の見方
第2章 「成長パラノイア」の起源
第3章 ヨーロッパ世界システムの拡大とイギリス
第4章 世界で最初の工業化――なぜイギリスが最初だったのか
第5章 イギリス衰退論争――陽はまた昇ったのか
エピローグ 近代世界の歴史像

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コメント

塩沢由典 様

>「需要から産業革命を見る」経済史の全体像が分かるような本があるといいですね。

同感です。「消費者の経済史」「家計の経済史」「需要成長の経済史」様のものがあるべきだと思います。

投稿: renqing | 2015年6月16日 (火) 11時04分

川北稔さんは、ウォラスタインと結びついていて、これまで敬遠していたのですが、紹介していただいて読んだ結果、すばらしい本に会えたと感謝しています。

renqingさんは、「成長パラノイア」に焦点をおいて紹介されていますが、わたしにとってこの本は、産業革命観の見直し・革新に正面きって取り組んでいられるところでした。

産業革命をどう理解するかは、経済学と経済史にとって試金石のような問題ですが、日本はマルクス経済学の影響がつよく、産業革命というとどうしても産業技術の進歩と労働組織の変化(工場制工業の成立)に焦点を当てて産業革命をみてしまう傾向がありました。この「供給サイド」の経済史に対し、北川さんは「需要サイドの経済史」を提起されています。

わたしがド・フリースの『勤勉革命』に注目したのも、同じ理由です。『イギリス近代史講義』には、「勤勉革命」についての言及はなかったと記憶しますが、イギリス国内で「需要から産業革命を見る」(p.158)ことについては、わたしが知っていたジョオン・サースクではなく、エリザベス・ウォータマン・ギルボイElizabeth Waterman Gilboyを挙げていました。Googleで調べてみると、アメリカ人ですが、18世紀イギリスの賃金史の本(1935)などが主著のようです。

「需要から産業革命を見る」経済史の全体像が分かるような本があるといいですね。

投稿: 塩沢由典 | 2015年6月16日 (火) 07時41分

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