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2010年11月30日 (火)

川北稔『イギリス近代史講義』講談社現代新書(2010年)〔その2〕

■「ハリー・ポッター」とジェントルマン的価値観

 少しわき道にそれる。映画「ハリー・ポッター」はいわゆるファンタジーである。その非現実的な世界を舞台とすることで、少年・少女たちの冒険活劇を通じた成長を描く。

 ならば、現実的背景はないのか。そんなことはない。ホグワーツ魔法魔術学校は、イートン、ラグビーなどに象徴されるイギリスのパブリック・スクールそのものである。すなわち、本書 にいう、ジェントルマン的価値観を体現している、と言ってよい。現代においても、イギリス人がジェントルマン的価値観に憧れていることが「ハリー・ポッター」のベストセラー化や映画の大ヒットに滲み出ている。

■漱石とジェントルマン的価値観

 日本においてジェントルマン的価値観に共感したのが漱石。それが漱石のいう「高等遊民」であり、それはジェントルマンそのものである。なにしろ、それは「高等教育を受けていながら、職業につかずに暮らしている人。」の意だから(日本国語大辞典)。例えば、以下のよう。↓

自分で高等遊民だと名乗るものに会ったのはこれが始めてではあるが、松本の風采(ふうさい)なり態度なりが、いかにもそう云う階級の代表者らしい感じを、少し不意を打たれた気味の敬太郎に投げ込んだのは事実であった。
『彼岸過迄』〔1912〕〈夏目漱石〉報告・十

■森嶋通夫とジェントルマン的価値観

 本書でも触れられている、幾度もノーベル経済学賞の候補に上ったといわれ、LSEに永く勤め、結局ロンドンで没した森嶋通夫も、若き日に漱石を通 じて感化され、「高等遊民」に憧れ、ジェントルマン的価値観にコミットした学者である。彼がマルクスの議論を数学的に再定式化したことや文化的なものが栄 えれば、経済は沈滞する、というマンパワー論も、そういった価値選択のなせる業だろう。

■反資本主義的メンタリティーとジェントルマン的価値観

 ワーキング・クラスに同情し、マルクスなどの左派の議論にも耳を傾けるジェントルマンたち。これを、Tory socialism という。サッチャーが蛇蝎のごとく嫌悪したのがこのグループだ。結局、サッチャーは保守といいながら、実際にやったことは、製造業の再生などではなく、金融ビッグ・バンによるシティの米国化=シティのウォールストリート化であり、そこにほのかに残存していたジェントルマン的価値観の息の根を止めたわけだ。

〔その3〕

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