「系譜学」から「機能学」へ(2)
この議論には重要な先駆者がいる。梅棹忠夫である。
系譜論と機能論
いままでのかんがえかたは、みんな文化の由来をもって日本の位置表示をおこなおうとしていた。
あるいは、文化を形づくるそれぞれの要素の系図をしめすことによって、現在の状況をしめそうとしていた。加藤氏の雑種文化論も、その名がそのまましめすように、血統の問題として文化をとりあげている。わたしはここで、文化の機能論的な見かたをみちびきれたほうが、話が、いっそうはっきりするとおもう。それぞれの文化要素が、どのようにくみあわさり、どのようにはたらいているか、ということである。
それは、素材の由来の問題とは全然関係がない。建築にたとえていえば、個々の材木が、吉野杉であるか米松であるかをいうのは、系譜論の立場だ。できあがった建築が、住宅であるか学校であるかをいうのは、機能論の立場である。それは、文化の素材の問題ではなくて、文化のデザインの問題であり、いっそうはっきりいえば、生活主体、すなわち文化のにない手たる共同体の、生活様式の問題なのである。
梅棹忠夫『文明の生態史観』中公文庫1998
、p.104
ただし、歴史形成物( Historical Generation )が歴史資源( Historical Resources )と完全に独立して議論できるものかどうかには、議論の余地があり得る。
制度などというものは、ある種のオブジェクトであり、主体に左右されない操作可能性は大きい。古代日本が大陸の律令制を受け入れたり、明治日本が西洋法を継受可能だったのもその卑近な例である。しかしながら、人類の生み出したさまざまなオブジェクトは観念や思想という膠で合成されたものなのであり、素材の癖に対する慣れのようなものも要求するだろう。その素材の歴史的特性故に、主体が意図した通りに目的のオブジェクトを生成( generate )ができず、かえって意図の反対物のようなしろものが出来上がってしまうこともあるだろう。
したがって、一筋縄ではいかないところもあるが、発見法( heuristic )として極めて重要なものであると考える。そのうえ、この考察法の先駆者はさらにいる。Weber と Darwin である。これについてはなかなかパワーも要るので稿を改めることにする。
〔参照〕 「系譜学」から「機能学」へ(1)
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