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2011年4月18日 (月)

勝田有恒/山内進編著『近世・近代ヨーロッパの法学者たち ―グラーティアヌスからカール・シュミットまで― 』ミネルヴァ書房(2008年)

 51rsanyctl 日本における西欧理解の水準を引き上げる素晴らしい書である。

 すなわち、現代世界の思想的・制度的枠組である「近代」は、ほぼ19世紀以降の西欧世界が他世界に提供した(押し付けた?)ものが模範枠組となっている。そしてその西欧世界の骨格を形成しているのが「法 law - recht - droit」という仕組みである。だから、その西欧における「法」理解を深める書籍は、我々の西欧認識を一段と引き上げ、その構造的理解を奥行き深いものとするのである。

 取り上げられているのは、法をめぐる思想家ではなく、法典編纂者などの法実務家、その法典編纂・解釈などに学問的、理論的貢献をなした学者たち、である。それらを本書では「法学者」と呼んでいる。現代日本人の感覚で言えば、「法律家」のほうがしっくり来るかもしれない。

 学者列伝といった、この種の本は、英語では、Companion(「案内」or「必携」の意)と名づけられる書籍である。有名なのは、Cambridge Companionとか、Oxford Companionなどのシリーズだが、本書の類書は両シリーズにはない。ということは、西欧においてもあまり類書がない、と考えてよいだろう。そういう意味でも貴重な貢献だと考えられる。法思想史の本ではお目にかかれない名前が随分と出てくる。

 全部で26名。内訳は、現代の国民国家の分類で言えば、イタリア人3名、フランス人3名、オランダ人1名、ドイツ人16名、オーストリア人3名、である。確かに、近代法・法学におけるドイツ語圏人士の貢献は顕著なものがある。それでも、フランス出身者が少ないとか、ヨーロッパの小国にあっても西欧の法発展に貢献した法学者はもっといてもよさそうな気がする、といった点から、少々バランスが悪いと言わざるを得ない。とりわけ残念なことにグレートブリテン島で活躍した法学者(法律家)がいない。これでは、近代資本主義の発生と法がどう交錯するのかを知りたいといった、私のような読み手にとっては、欲求不満が残る。率直に言って、Frederic W. Maitland を立項していないことが、本書の唯一、最大の瑕疵だと思う。極めて残念。  この点は、姉妹編である、

勝田有恒/森征一/山内進編著『概説西洋法制史』ミネルヴァ書房(2004年)

においても同様。日本の大学における法史学が、主にドイツ法系の人々によって担われている証拠というべきだろう。

 近年、読書界で話題になった、佐々木中『切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話 』河出書房新社 (2010年)
とか、それを通じてルジャンドルやら、「中世解釈者革命」、などに関心がある向きは、その方面の別種のソースとして手元に置いておくと、ある種の解毒剤になるかも知れない。佐々木中だけを読んで分かった気になるのは危険だからである。

勝田有恒/山内進編著『近世・近代ヨーロッパの法学者たち ―グラーティアヌスからカール・シュミットまで― 』ミネルヴァ書房(2008年)

目次
序 章 近世・近代ヨーロッパにおける法学者たちの歩み
第1章 [ヨハンネス]グラーティアヌス
第2章 バルトルス・デ・サクソフェラート
第3章 ヨハン・フォン・シュヴァルツェンベルク
第4章 ウールリッヒ・ツァジウス
第5章 アンドレーア・アルチャート
第6章 ジャック・キュジャス
第7章 フーゴー・グロティウス
第8章 ベネディクト・カルプツォフ
第9章 ヘルマン・コンリング
第10章 ファイト・ルートヴィヒ・フォン・ゼッケンドルフ
第11章 ザームエル・プーフェンドルフ
第12章 クリスティアン・トマジウス
第13章 クリスティアン・ヴォルフ
第14章 シャルル・ルイ・ド・スゴンダ、バロン・ド・ラ・ブレード・エ・ド・モンテスキュー
第15章 ロベール・ジョゼフ・ポティエ
第16章 パウル・ヨハン・アンゼルム・フォン・フォイエルバッハ
第17章 フランツ・フォン・ツァイラー
第18章 アントン・フリードリヒ・ユストゥス・ティボー
第19章 フリードリヒ・カール・フォン・サヴィニー
第20章 ゲオルグ・フリードリヒ・プフタ
第21章 ベルンハルト・ヴィントシャイト
第22章 ルードフ・フォン・イェーリング
第23章 オットー・ギールケ
第24章 フランツ・フォン・リスト
第25章 オイゲン・エールリッヒ
第26章 カール・シュミット
年 表
図版出典一覧
あとがき
人名索引/事項索引

版元による詳細な紹介PDF

〔参照〕 「法の支配 rule of law 」考

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コメント

fearon さん

すみません。故水波朗氏については、コメントで既に触れられておりましたね。失礼しました。ただ、私が触れた「指月の譬え」は、奥様の編集された私家版遺稿集以外には収められてないかと思います。実名ずばずばで徹底した批判ですし。これは、創文社から『創文』を取り寄せられて、一度読まれることを強くお薦めします。

投稿: renqing | 2011年4月18日 (月) 13時23分

fearon さん、コメントありがとうございます。

以前、「自然法」というカテゴリーを作っていたのですが、現在そのカテゴリーに入る記事は、すべて「法哲学・法理論」というカテゴリーに編入してあります。画面右側のカテゴリー・サイドバー中の下から1/3のところにあります。お時間があるときにでも、ご覧下さい。その中でも、水波朗(自然法論者)による実定法学者批判の話題はとても重要です。

また、オーソドックスな見通しを得るために、概説書として以下の書を図書館で閲覧されるか、古書で安く購入されることをお薦めします。200頁の比較的薄い本ですが、コンパクトに正確な知識を与えてくれます。

A.P.ダントレーヴ著、自然法 、岩波書店、1952年、久保正幡訳

投稿: renqing | 2011年4月18日 (月) 12時18分

自然法の勉強をしようと思って探していたら、たまたまこちらのブログを知りました。
法学出身ではないので、適当に読んでいます。
(ヨンパルト、水波朗先生あたりの本を読んでいます。)
聖書は一応、すべて目を通しました。
阿南、碧海純一先生の派はまだ未読です。
ルソー読まねば。

投稿: fearon | 2011年4月18日 (月) 08時46分

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