直観主義(intuitionism)とポアンカレ(Jules-Henri Poincaré)
以前、下記のエントリー※でポアンカレと直観主義の関連に強い疑義を書いた。ところがある文献*を読むとその関連には合理的根拠があることが分かった。従って、ここに小さく訂正のエントリーを記載しておく。ただし、私の間違いにも多少の救いはあるので、弁明も少し書いておきたい(箇条書き風に整理してみる)。
*林晋・八杉満利子 訳・解説『ゲーデル 不完全性定理』岩波文庫(2006年)
pp.181-197、特にp.197を参照。
①ヒルベルト(David Hilbert)の無矛盾性の証明に対するポアンカレの数学的帰納法からの批判
②ブラウワー(Luitzen Egbertus Jan Brouwer)からのヒルベルト形式主義批判
③ブラウワー自身による自らの「直観主義」命名と、その先駆としてポアンカレの位置づけ
つまり、「直観主義」という名称は、ブラウワーによる自らのラベリングであり、ポアンカレ自身が「直観主義」なるものを奉じたことはない、ということ。したがって、その意味では、ポアンカレが「直観主義者」だったことは一度もない、と言ってもよいだろう。ま、似たもの同士ではある。また、上記解説によれば、ブラウワーは自身とベルグソン(Henri-Louis Bergson)との類似性も意識していたようだ。ベルグソンの「創造的進化」論とポアンカレの《認識的進化》論には強い共時性があると考えられるので、その意味でブラウワーとポアンカレの知的カテゴリーに親近性があると推定できる。ついでに言えば、ベルグソンと米国プラグマティズム(pragmatism)にも知的近さがあるので、この問題の中に第一次大戦前までの西欧知性史に深く関わることが潜在していることも予想される。この点、トゥールミン(Stephen Toulmin)の指摘が重要だろう。
※下記エントリー
物理法則に物理量は存在するか?(2.3)
物理法則に物理量は存在するか(3.1)
※F.Nakajima 様、私に間違いがあったようです。前言を訂正します。
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