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2012年2月 5日 (日)

過去を探索する学問モデル

■アブダクション(abduction)とは?

ある仮説の必然的帰結を確定するところの演繹(deduction)と、この帰結が観察事実といかに近似しているかを検証するところの帰納(induction)とに先立って、それまで説明の与えられていない不規則的現象のうちに一つの仮説的秩序を見出す過程
岩波哲学・思想事典(1998)「アブダクション」、伊藤邦武筆

■アブダクション過程としての裁判

大前提(法)   「他人の権利を侵害した者は、損害賠償の責任がある」
小前提(事実)  「BはAの権利を侵害した」
帰結命題      「BはAに損害賠償の責任がある」

 裁判過程は二つの仮説の争いと見なせる。

①原告(A)の主張「BはAの権利を侵害した」+証拠            (仮説A)

②被告(B)の主張「BがAの権利を侵害した事実はない」+証拠  (仮説B)

 つまり、裁判官から見ると対立する仮説のどちらが、法(規範)に照らしてより妥当な主張かを判断することになる。例えば、これは対立する複数の系統樹からより妥当な一つの系統樹を選択する過程と同型と言える。

■裁判(or 法)的思考の幾つかの特質

法的思考様式は、「あれかこれか」という二項対立的な形をとらざるを得ない。つまり、「価値紛争」における判断であるか ら、妥協によって解決する「利益紛争」と異なり、ある事実があったかなかったか、ある権利義務が存在するか否か、という形をとることになる。この特質は、 因果法則的・目的=手段思考様式が確率や蓋然性にもとづく思考様式であるのと対照的である。

法的思考様式は、過去を志向する。それは、紛争当事者の相互の比較に基礎をおくので、必然的に、当該当事者がこれまで「な したこと」を比較対照することになるからである。「将来なすであろうこと」の比較は、因果法則を前提とし、何らかの目的(たとえば犯罪の予防)に照らして 評価を加えることであるから、排除される。これに対して、目的=手段思考様式は、将来生じうべき事態を因果法則に従って予測し、それに対してとるべき手段 を示すことを任務とするのである。
引用はともに、平井宜雄『法政策学 第2版』有斐閣(1995年) 、p.18より

■過去を探索する学問モデル

「合理的なことを企てる rational enterprise 」 際の当のモデルは、十六世紀の学識者にとっては、科学ではなく法律であった。
スティーブン・トゥールミン『近代とは何か』法政大学出版局(2001年) 、p.53

 すなわち、学問的思考モデルには、《因果律》的なものと《法》的なものの二つのモデルがあると考えられ、過去を探索する学問の場合は、後者的なものが中心となる、というのが私の当面の結論となる。

〔参照〕思考モデルとしての法

〔参照:関連弊ブログ記事〕
系統樹思考は歴史学的思考か?
系統樹思考は歴史学的思考か?(2)
論語 為政第二 十七


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