新カント派の亡霊について(応答2)
〔応答1〕より
いまだ、多忙の身で、頭がおかしくなりそうですが、ずるずる放擲することもできない性格なので、少しずつ応答してみます。自然法についてです。
碧海純一氏のお弟子さんに、長尾龍一氏という法哲学者がおられます。下記は長尾氏のHPです。
長尾氏の著作に、『法哲学入門』があり、1983年に日本評論社から出ていて、それが文庫で復刊されています。
そこに、
第五章 実定法を超えて 三 自然法の問題
という節がありますので、それを素材に議論してみます。時間がないので中途半端になるかもしれませんが、そうなるようなら、《応答3》に続くとお考え下さい。
引用①しかし、人間社会である以上どんな社会にも最低限のルールがあるとするならば、「万人に共通な良心」もありうる。
「殺すなかれ」「盗むなかれ」というような、モーセの十戒に列挙された戒律はどんな社会にも妥当すると田中耕太郎氏はいう(『法律学概論』62頁)。たしかに、同一集団内については、ある程度そういえるが、対外関係については全然違う場合が多い。戦争中、中国人を殺したり欺したりした人たちも、日本社会の中では、「有徳の人格者」は少なくない。(長尾著、p.213)
引用②自然法を認識する各人の良心が、ア・プリオリに一致するものでなく、多様な良心があり、また社会を無政府状態から守らねばならないとすれば、自然法の認定、良心の公定という仕方で、実定法の体系が成立する。(長尾著、p.217)
引用①で長尾氏は、日本人社会においては有徳な日本人であっても、外国人である中国人に対して有徳ではない事例をあげています。そしてそれを当然と思っているのではなく、批判する文脈で語っています。つまり、外国人である中国人にも有徳であるべきだ、と。この長尾氏の立場はいかなる所からもたらされているか。それは、長尾氏の人間としての良心でしょう。
そうすると、引用②の「多様な良心」の中にも、誰もが認める可能性の高い最大公約数的な共通部分はあるとみてもよいのではないでしょうか。
また、こういう文もあります。
引用③惟天地万物父母、惟人万物霊とのたまふ時は、ばんみんはことヾく天地の子なれば、われも人も人間のかたちあるほどのものはみな兄弟なり。
中江藤樹『翁問答』(1640年)、日本思想大系29『中江藤樹』、岩波書店、1974年、P.40
こういう感覚は、人権(human rights)の基本的な前提となる普遍的考え方、と言ってもいいのではないか、と思います。
〔応答3〕へ続く
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