〔レジュメ〕神野直彦 『財政のしくみがわかる本』2007年 岩波ジュニア新書
以下は、表題本への二つの感想と、ごく簡単なレジュメ。諸氏のご参考程度になれば幸甚。
〔感想Ⅰ〕第1章で、徳川期における財政に関して軽く触れている。ただその触れ方が旧態依然とした徳川像なのは困ったもの。ジュニア新書だからこそ、そこは最新の徳川経済史を踏まえて触れるべきだった。ま、この岩波ジュニア新書のシリーズに、「徳川日本のしくみがわかる本」が必要なのだろう。
〔感想Ⅱ〕第6章(pp.167-8)で、三多摩が明治26年に神奈川県から東京府へ移管された経緯にふれている。上水道整備にとも ない、東京府へ三多摩から上水道が供給されることになり、天皇が飲む水を神奈川県から取水するわけにいかないので東京府へ移した、との記述がある。う~ ん、それは口実だと思うが。既に過去記事で触れたが、恐らく山県あたりの差し金で、自由民権運動の激しかったこの地域を中央政府の直接統治のコントロール下に置くためだろう、というのが私の見立てだ。
〔レジュメ〕
■1.財政とは?
*「徳川日本のしくみがわかる本」が必要?
*君主のサイフ(家政)から共同体のサイフ(財政)へ
*共同体における市場分野と非市場分野
■ 2.予算とは?
・予算原則
①予算は一つ → 特別会計の怪
②ノン・アフェクタシオン(非充当関係)
③総額主義
④超過支出禁止
⑤流用禁止
・予算は法である
・予算の大蔵支配は1940体制の遺制
・ 対価原則 vs. 等価原則
・ 地方自治体予算 ← 骨格予算・肉つけ予算
・「再議権」「原案執行権」
■ 3.租税とは?
・ 租税の3要素
① 強制性
② 無償性
③ 収入性
・ 徴税の根拠
①利益説 ②義務説
・ 負担原則
①応益原則 ②応能原則
・ 所得税の公平3原則
①累進性 ②差別性 ③最低生活費免税
・ 所得税制における分離課税の問題
・ 間接税(付加価値税)
①前段階売上高控除方式
②前段階税額控除方式(インボイス方式)
・固定資産税
■4.財政支出
・戦前 ⇒ 戦後
・ニーズとウォンツ
■5.政府債務
・内国債と外国債、デフォルト可能性
・累積債務による、金利上昇 or インフレ
・債務累積への対応
①債務累増へのブレーキ
②利払い
③支出規模の維持
④公平な租税構造
⑤適切な金融政策
・政府債務 中央と地方公共団体
■6.国と自治体
・補完性の原理
・財政の決定権
■7.財政の問題点
日本政府の財政責任の放棄
■8.未来像
・再分配
・意思決定
・ 民主主義の原則
①未来は誰にもわからない
②人間には誰でもかけがえのない能力がある
神野直彦『財政のしくみがわかる本』2007年岩波ジュニア新書
■目次
1 財政って何だろう
2 予算って何だろう
3 税はどんなしくみになっているのだろう
4 どんなところにお金を使っているのだろう
5 借金はどうなっているのだろう
6 国と自治体の関係
7 いま財政がかかえる問題
8 財政の未来像をえがく
あとがき
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コメント
足踏堂 様
毎度コメントありがとうございます。
私たちを取り巻くtemporaryな《世界》には、モノ、コト、ヒトが溢れています。それらのsequentialな時間的経過の軌跡が《事実としての過去》です。しかし《事実としての過去》そのものは《歴史》とは言い難い。その無数の糸を一つの基準criterionをもとに、織物textureとして織り上げる行為、これが《歴史》叙述でしょう。そうして初めてヒトにとって理解可能な《歴史》となります。
したがって、どんな《歴史》叙述にも、特定の意図がなければなりません。中国における「正史」などはその典型です。成立した新王朝がいかに天命を受けた由緒正しい王朝であるのかを弁証するものです。差し詰め、《高校日本史》やら《高校世界史》やらは、《叙述の意図》などないという、《抑圧され、透明化した意図》の下に書かれているため、在りし日の足踏堂氏のようなsensitiveな高校生には知的混乱をもたらすものでしかないのです。高校生に「歴史離れ」があるとするなら、合理的な帰結と評せざるを得ないと思います。いっそのこと入試科目からはずしたほうがよいかも知れません。
投稿: renqing | 2012年5月31日 (木) 03時20分
香川の移籍の件、renqingさんの予想通りだったため、覗きに参りました。
ただ残念なことに、私が全くもってサッカーに疎いため、何のコメントもできません。
前々から思っていたのですが、たとえばマラドーナの凄さは、サッカーをやっている人間とそうでない人間とでは、認識が変わるわけで、となると、よく巷に言われる「素人にもわかる説明ができるのが本当のプロだ」的な言い回しは完全に間違っているように思えます。
やはり、香川や山田(私は知らなかったのです)の凄さは、サッカーに親しんでいる方の方がずっと私よりも理解すると思います。
そして、これは学問一般に関しても真理だと思われますね。
と、前書きの方が言いたいことだったため、長くなりました(笑)
岩波ジュニア新書についても、付け加え的本題として。
川北の『砂糖の世界史』は私も読んでおりました。こういうのを学としての「世界史」と呼ぶのだと思います。しかし、学校で学ぶものは、まるで解釈などしていないと言わんばかりの「事実の羅列」で無味乾燥な代物。モノを見る見方や批判思考を学ぶことよりも、知識を与えるのが教育だと考えているかのようですね。世界史の教科書ってのは、読んでみても何が何だか理解できないのは、私の頭が悪いからでしょうか?
そんなことを考えていた折、やはり岩波ジュニアの井波律子『故事成句でたどる楽しい中国史』を読み、中国史の知識が整理され大変為になりました。「これならわかる」というのが感想です。やっぱり、私の頭のせいじゃないんじゃないかと思った次第です。いや、わかりませんが(笑)
とにかく、学問ってのは、量をもってわかる部分があるのに、昨今の風潮は、「なるべく効率的に」ってやってしまっていて、思考力がつかないばかりか、結局知識も忘れられていくという、ひどい結果を生んでいる気がします まる
投稿: 足踏堂 | 2012年5月30日 (水) 15時37分
>他の大部に関してはなかなかまとまった記述だったのではないかと、貴レジュメから推測いたしますが如何。
はい。財政について一通りの概観を得たい大人の読書にも十分耐える内容だと思います。その意味で高校時分に読破すべきものですね。
>私も岩波ジュニア新書を近頃手に取ってみまして、悪くないものもあるなと感じています。
はい。
同じく、岩波ジュニア新書の川北稔『砂糖の世界史』は、すでに、韓国語訳、中国語訳(北京、台湾)も出ています。非西欧人の書いた西洋史として名著の部類に入るものでしょう。これなども、サブプライム、フクシマ以降の人類史を考える上で、高校生に是非読んでもらいたい書です。
投稿: renqing | 2012年5月10日 (木) 13時21分
〔感想〕でのご指摘、流石ですね。
餅は餅屋というか、経済学者の矩を超えた記述でミスった感じでしょうかね。
他の大部に関してはなかなかまとまった記述だったのではないかと、貴レジュメから推測いたしますが如何。
私も岩波ジュニア新書を近頃手に取ってみまして、悪くないものもあるなと感じています。
投稿: 足踏堂 | 2012年5月 9日 (水) 20時12分