人類史におけるヨーロッパの特異性(2)
■《帝国》vs.《主権国家システム》
人類文明史を旧石器時代から考えれば約1万年。その中で、《王朝=帝国》が人類史的に普遍な現象であって、初期近代の西欧のような《主権国家群システム》こそが例外といえる。
例えば、古代からその領域の広大さ、抱える大人口、複数言語、複数文化。それらの特性を併せ持つ中国大陸で、西欧のような主権国家群による《世界システム》がその内部に形成されても不思議ではないはずなのに、解体の契機はありながらも、絶えず帝国は再生されてきた。
また、中東から西アジアに形成された各種のイスラム帝国(アラビア・イスラム、ペルシア・イスラム、トルコ・イスラム、等)にしても、インド亜大陸に繰り広げられたムガル帝国なども、広大な領土+巨大な宮廷官僚制+発達した商業網、という制度的パッケージを保有する《帝国》だ。
《帝国》形成の原因や力学がどんなものであれ、人類史的にはそれが普遍的現象なのに、西欧には西ローマ帝国崩壊→フランク王国以後、ヴァロワ家や ハプスブルク家による帝国形成の野望はありながらも、常に各地に巨大貴族としての王家、大貴族、中小貴族が割拠していた。誤解を生みやすいが、これがいわゆる《封建制》だった。その《封建制》は、宗教改革の衝撃とそれにともなう三十年戦争という業火によって、《原主権国家システム》としてのウェストファリ ア体制に overwrite(上書き)されてしまった。
■《公儀-大名システム》は.《神聖ローマ帝国》か?
この《帝国》と《封建制》の中間形態が、鎌倉、室町、徳川と続く、「幕府」システムだといえるだろう。公法的権威としては神聖ローマ皇帝と「禁裏」が対応し(ただし、帝国議会・帝国裁判所に見合うものが無い)、現地勢力としては領邦君主と大名家が対応する。
徳川《帝国》が、その内部に、《大名家(=藩)》という擬似主権国家群を抱えていたことが、初期近代の列島史と西欧史を似通わさせているとも言えよう。
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