失業の恐怖とベーシック・インカム
かつて、思想史家の関曠野は、「である」ことと「する」ことの中間に、「演ずる」がある、と語ったことがある。一方、日本語に「役に立つ」という表現がある。簡単にいえば、社会的分業の一部を担っている、全体のうちの一部として機能しているという意味だろう。
さて、ベーシック・インカムが制度として整備されれば、例えば失業による家計的危機に対処することは可能だろう。一方、失業者の、社会的分業(division of labor)の一部を担っていない、役に立っていない、という喪失感は、金銭では埋め合わせが難しい。
他者に貢献したい、役立ちたい、そしてその貢献によって他者に結果として承認されたい。つまり、他者に当てにされたい。この欲望は人間誰しもある。すると、身分制とそれにリンクした「職」で構成されていた前近代を清算した資本主義の下で暮らす人々においては、それは自分の「役」を自分で見つけなければならないことを意味する。にも関わらず、己の思惑とは別に、その時々の有効需要の変動によって雇用されたり失業したりもする。
「役に立つ」ことがそのまま有職であることと直接リンクしない社会。そんな新しい社会についての構想力が、いま人類に問われている。なぜなら、全ての人間が「役」を求めて働けばGDPは増え、社会全体は「成長」するかもしれないが、それは結局、地球の環境負荷レベルを押し上げ、人類自身の首を絞めかねないからだ。
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