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2015年4月14日 (火)

森杲『アメリカ職人の仕事史:マス・プロダクションへの軌跡』中公新書1996年

以下、書評、というよりは、読後感のレジュメ。

評価点
1)一つの特色あるアメリカ経済の通史である。
2)アメリカの経済発展の経緯が、その初めから連邦政府の強い介入とともにあった。
3)特に、陸軍との強い関連性の指摘、とりわけ the Corps of Engineers(工兵隊)との関わり、ウェストポイントが元来工兵(=軍人エンジニア)養成を目的としていたこと。
4)アメリカ的特長としての技術情報の拡散と特許制度の関連
5)American System of Manufacturers(大量生産方式)の生成の概観を得られる。
6)そのなかでも、互換性生産の経緯の詳細がわかる。木材加工(木製時計生産)から金属加工(小銃生産)へ。
7)徒弟制→内部請負制→テイラー・システム(科学的管理法)の史的経緯・変容、それが「熟練」の解体であるとともに、労働・生産組織における規律(紀律 dicipline)化の側面を持つことが理解される
8)上記に、軍人エンジニアが《組織のエンジニア》として深く関わっていたことの指摘
9)19世紀の労働運動、社会主義とアメリカ職人の関連、19世紀後半のアーツアンドクラフト運動(ラスキン、モリス)と職人史・熟練史との関連

問題点
やはり新書サイズで、膨大な情報(労働史・技術史・経営史・経済史)を取り込んで一書にするのは結局、かなりの困難を伴う作業であって、各章は概ね経時的配列だが、各章の内容的記述バランスはかなりばらつきがあって、統一的な像を結びにくい。

総評
総合評価★★★★★
北米合衆国の国家形成史・生成史の一つの経済的側面を、詳細な情報でたどれる資料的価値は極めて高い。いわば《もう一つのアメリカ史》としての意義、それを新書でアクセスできるというメリットは多大なものがある。

森杲『アメリカ職人の仕事史:マス・プロダクションへの軌跡』中公新書1996年

目次
はじめに
序章「自分の仕事をならったとおなじようにはやらない」 1
第1章新大陸の開拓生活が生んだ万能職人 17
1.入植者のなりわい 18
2.田舎町の親方職人 34
3.都市の職人養成 42
第2章職人意識の形成 57
1.はじめての政治行動 58
2.「中くらい」の階層 68
第3章仕事場に機械をとりこむ 83
1.工場制度の作用 84
2.反攻する職人 100
3.機械化の先頭に立つ 109
4.特許制度の効用 123
第4章時計と小銃―互換性生産へのとりくみ― 133
1.木製装置の時計 134
2.国営兵器工場の小銃生産 144
3.エンジニアの登場 155
第5章ヨーロッパのあらわれたメイド・イン・アメリカ―アメリカ的生産システムへの注目― 163
1.ロンドン万国博のアメリカ製品 164
2.「イギリス人は敗北を認めた」か 175
3.生産のアメリカン・システムとは何か 184
第6章大工場ではたらく職人ー19世紀末 193
1.西にむけて展開する工場制度 194
2.鉄道―最初のビッグ・ビジネス 210
3.切りむすぶ新旧の熟練 224
終章アメリカ職人史がおしえること―研究の反省 243
あとがき
図表出典
主要参考文献

※過去にも同タイトルの簡略版記事があるのでご参照。
森 杲『アメリカ職人の仕事史』中公新書(1996年)

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コメント

塩沢由典 様

『現場主義の国際比較』のご紹介ありがとうございました。GEの事例だけでも機会を見つけて眼を通しておきたいと思います。

>「職人の仕事史」と題されていますが、これでけっこうアメリカ合衆国の経済史のかなり重要なところが理解できた

同感です。願わくば、どこかの大学出版会あたりから、註、図版、文献、などをびっしりつけて出版されるべきだった、と思います。

アメリカ経済史の文献としてもかなり重要ですが、「技術革新の進化史」の事例研究(この場合は、大量生産方式)としても素晴らしいものだと考えます。

投稿: renqing | 2015年6月16日 (火) 11時22分

紹介していただいた2冊のうちの一冊です。アメリカの経済史については、これまで新書程度のものも読んだことがなく、「職人」というテーマにおけるものとしても、これが始めての通史でした。

「職人の仕事史」と題されていますが、これでけっこうアメリカ合衆国の経済史のかなり重要なところが理解できたのではないかといった印象を持ちました。

偶然ですが、ちょっと前に谷口明丈編『現場主義の国際比較/英独米日におけるエンジニアの形成』を贈呈していただきました。その中にもアメリカのエンジニアの養成史が2章出てきます。第5章のGEのテスト・コースの話は、GEという会社がアメリカ社会の中に電気技術をいかに普及させたかという話としても、とてもおもしろいものでした。

投稿: 塩沢由典 | 2015年6月16日 (火) 08時05分

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