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2015年5月 1日 (金)

読書をすると頭が良くなるか?(1)

「読書をすると頭が良くなる」

 これは多分まちがいない。少なくとも、私は頭が良くなったと実感している(笑)。

 今思い返すと、私の小・中学の時代はあまり頭が良くなかった(苦笑)。小学生のとき、亡き父が予約購読してくれた、「小学館カラー版少年少女世界の文学」という全集を手にした。アンデルセン「人魚姫」やアナトール・フランス「聖母と軽業師」、三島由紀夫「潮騒」、魯迅「阿Q正伝」などはその時に読んだと記憶する。

 他は、百科事典を牛が草を食むようにぶらぶらと文字通りブラウジングすることは好きだった。その頃の流行で、亡父が Encyclopedia Britannica を本棚の飾りとして奮発したので、拾い眺めながら雪舟やその絵、のような日本関連記事を見つけて喜んだりしていた。しかし、一冊の本の世界を探検するような読書ではなかった。おかげで、学校の成績は中の上(中の中か?)あたりをうろうろしていた。

 少し読むようになったのは、高校に入り電車通学をするようになってからだ。通学中持て余した時間に文庫を読むようになった。何故かわからないが、高1の最初に手にしたのがトルストイの「復活」。そんな重いものを通学中の電車の片道数十分で読まなくてもよさそうなものだが、トルストイの名とタイトルに引かれて(かつてあった)教養主義的な強迫観念で読んだものと推測する。結局、面白くなかった。これがトラウマになったのか(どうか不明だが)、その後ロシア文学とは縁が切れた。成人後、読書会の課題本でドストエフスキーの「地下室の手記」を読んだくらいか。こちらもとんと脳裡に残っていない。

 通学中にそんな堅い本を読むことの無益を知った私は、その後は肩のこらないSF(平井和正や小松左京)のようなものを次から次へと読んだ。高校の現代国語に当時は採録されていた鴎外の「舞姫」や、擬古文の明治文学の流れで一葉の「たけくらべ」をその合間に挟んだりしていた。

 この頃からどうも私は頭が良くなってきたらしい(笑)。上記のような本のコンテンツ(エンタメ系のSF)で頭脳を鍛える効果が果たしてあるのか、いささか疑問ではある。しかし賢くなった(らしい)証拠はある。当時、高校の教師二名から、授業中「彼は頭が良いね」とコメントされたことがあるからだ。一人は高1現国の若い教師。芥川龍之介「羅生門」の読解で発問に答えたときにコメントされた。もう一人は高2物理のベテラン教師。この時はなぜか化石の話題が出てその発問に答えたとき。しかし学年順位は相も変わらず中の上あたりで鳴かず飛ばずだったので、学力に関する当時の自己認識はあまり冴えたものではなかった。

 大学に入り、1年の教養系の講義では4月はガイダンスが専らなので、そこから「読むべき本」リストが頭にインプットされた。丸山真男、大塚久雄、Max Weber、Karl Marx、等。ありがちがリストだが、それでもこういうガッツリ系の歯応えのあるものに悪戦苦闘し始めた。一方で、梅棹忠夫 「知的生産の技術」を知り、工学的な分野以外にも技術・方法論が存在し、その重要性にも気が向くようになった。本に傍線を引き、思い付きをその頁に書き込みながら読むようになったのは梅棹後だ。その習慣のため図書館を利用することは難しくなってしまった。ただ、この時点では学問の新鮮な魅力に引かれ、論文のようなものを優先的に読んでいたので、本格的な読書はまだだった。Weberの「倫理」を大塚・梶山訳の岩波文庫で2回ばかり読んだから、これは「読書」の名に値するものだったが、今から思えば、じつはこれも「本」ではなくて、その実態は「論文」だったことにいま気付く。

 結局、「読書」をし出したのは、仕事を始め、自分の金で自由に本を買えるようになってから(傍線・書き込みをしないと読めなくなっていたので)。20代前半から半ばにかけて、渡辺慧「生命と自由」が転機になり、考えることの愉しさを知った。その頃は通勤の往復で、渡辺慧、柳瀬睦男、柴谷篤弘等の科学方法論、科学哲学を読んでいたはず。

 そのうち、奇縁からある読書会に出入りし始めて私の本格的な読書人生が再スタートした。だから頭が良くなってきた自覚があるのは、読書量が増えた成人以降であり、それも20代半ば以降からと言える。 

 と、ここまでが前置き。随分長いイントロだったが、つらつら思い出しているうちに思わず長くなってしまった。本論は、(2)へと続く。

〔参照〕高校の図書室にまつわる回想

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