« 光の速度を超える話 | トップページ | 解釈学としての進化論/ Theory of evolution as Hermeneutics (Hermeneutik) »

2015年6月 8日 (月)

古代ギリシア人の名前(1)/ Ancient Greek Names (1)

古代ギリシア人の名前(2)へ続く

 随分前に、天皇になぜ姓(family name)が無いのかを数編書いた。そこで古代ギリシア人にも姓(family name)がないことを記し、典拠も紹介した。偶然に、他の文献も知ったのでご報告。

・・・。ギリシア人の名前は普通ピリッポス Phil-ippos (「馬を愛する者」)とかディオスドトス Dios-dotos (「ゼウスより與へられた者」)の如き二語の合成より成り、両親は子供の将来を祝ひ、また之に期待するよい名を選んだことは我が国の命名と同じであるが、また祖父の名を継ぐといふ風習も相当に広く行われてゐた。ギリシア人には姓といふものがなく、唯名のみであったが、公式の場合には例へば、「キキュンナの、ペイドーンの子ストレプシアデース」(アリストパネース「雲」135行)といふやうに自己の属するデーモス名、父の名を自己の名に付した。父の名は属格によって表はしたが、古くはロシア語のやうに形容詞によったのであって、之はテッサリアやレスポス島の方言に於て後代まで用ひられてゐる。
高津春繁『アテナイ人の生活』アテネ文庫(弘文堂・昭和24〔1949〕年刊pp.24-25)下線部、引用者

91nezvbeepl_sl1500_

 古代ギリシア人の名前と直接民主政は直結している。古来、姓名は身分を表徴するものだった。こういう歴史への繊細さの有無が、過去を現代に生き返らせるか死に体のままにするかの岐路となる。我々は過去という大気も呼吸して今を生きている。


〔参考記事・他サイト〕
Ancient Greek and Roman Names Information
出典サイト
 プラトンやアリストテレス、ソクラテスに苗字はあったのでしょうか? 【OKWave】

〔参考記事・弊ブログ記事〕
古代弥生人の名前 ←「輝彦」の「彦」は奈良以前の古代日本の男性の尊称、「卑弥呼」は人名ではない?、といった話題はこちらの記事へ。
天皇の姓(family name)
天皇の姓( family name) (2)
百姓と朝廷 ←「佐助」「五右衛門」といった、庶民の given name は、古代律令制の官職名に起源を持つ、といった話題はこちらの記事へ。
国制と名前(name) ←※下記、コメント欄で紹介しました、元出入国管理官・島村修治氏の名著、『世界の姓名』講談社1977年、を引用した弊ブログ記事です。ご参照頂ければ幸甚。

|

« 光の速度を超える話 | トップページ | 解釈学としての進化論/ Theory of evolution as Hermeneutics (Hermeneutik) »

西洋 (Western countries)」カテゴリの記事

文化史 (cultural history)」カテゴリの記事

古代」カテゴリの記事

コメント

塩沢由典 様

この「姓名」に関しては、面白い資料がありまして、随分古いものですが、類書が見当たりません。島村修治氏という法務省入国管理畑の方がかかれたものがあります。そこに近代国家史との関連で重要な指摘もありますので、近いうちに本記事の続編の形で書きます。

投稿: renqing | 2015年6月18日 (木) 12時51分

教科書的な知識では、江戸時代は農民には苗字帯刀が許されていなかったとされていますが、帯刀はともかく苗字はけっこういろいろな農民が(非公式に)持っていたのではないでしょうか。わたしの家も、母方の家も、ともに農民ですが、江戸時代にから苗字(塩澤と福島)はちゃんとありました。しかし、日本は、江戸時代に苗字(姓、家名)を名のらせないことが、政府(幕府+藩)の一般的政策だったようですが、ヨーロッパでは、ことなる歴史をもつようです。

うろ覚えで残念ながら本(英語)の名前を思い出すことができませんが、ヨーロッパでは近代国家を形成する過程の一環として、given name 以外に家系をあらわす姓を名乗らせるようにしたとあります。その主な理由は、本人を特定して税金をとるためだったとありました。

googleで調べてみたも、なかなか出てきませんが、ひとつだけ
Maura Elise Hametz 2012 In the Name of Italy:Nation, Family, and Patriotism in a Fascist Court: Nation, Family, and Patriotism in a Fascist Court, fordam Univ. Press. p.76
に以下の記述をみつけました。要点は以下の通りです。

ヨーロッパでの姓の使用の導入と経緯については、国・地域により大きな差がある。イギリス surnamesの法的使用は12世紀から15世紀にはあった。土地所有権、相続、税金徴収、登記などのためである。サルディニア(イタリア)では、二重名方式(binomial = given nae + family name)は12世紀に確立したが、surnameの父系継承は17世紀末から18世紀はじめからである。

中国や韓国(朝鮮)は、古くから姓名があるようですし、インドネシアやビルマでは、いまも基本的にはgiven nameのみだと聞きます。けっこう、おもしろい問題ですね。現在の状況は、人類学では調べがついているのでしょうが、いつからどう変化したかとなるとなかなか難しいのかもしれません。

投稿: 塩沢由典 | 2015年6月18日 (木) 00時52分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 古代ギリシア人の名前(1)/ Ancient Greek Names (1):

« 光の速度を超える話 | トップページ | 解釈学としての進化論/ Theory of evolution as Hermeneutics (Hermeneutik) »