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2015年8月13日 (木)

塩沢由典・有賀裕二編著『経済学を再建する』中央大学出版部(2014年)〔1〕

今回試みるのは下記の書評である。その中でも、塩沢由典氏の手になる提案編の合計5章のみである。これは偏に弊ブログ主の知的資源の限界ゆえである。ご寛恕願いたい。1章づつ記事化する。

塩沢由典・有賀裕二編著『経済学を再建する―進化経済学と古典派価値論―』中央大学出版部(2014年3月)

まずは、目次から。

【目次】

提 案 編
第1章 なにが必要か―経済学再建のために―(塩沢由典)
1.過去30年間のマクロ経済学
2.マクロ経済学のミクロ的基礎付け
3.ケインズの「生産の貨幣的理論」
4.マーシャルとケインズ
5.新古典派価値論からの脱却
第2章 進化経済学の可能性(塩沢由典)
1.はじめに
2.進化経済学を支えるシステム理論
3.生産関数からグローバル・ヒストリーまで
4.スケール・フリー・ネットワークと経済成長
第3章 価値と数量の二重調整過程(塩沢由典)
1.機能する経済の基本前提
2.進化のミクロ・マクロ・ループ
3.進化経済学を補完する価値論
4.生産量の調節と需要の変化
5.ケインズとリカードを結びつける
第4章 古典派価値論のリドメイニング(塩沢由典)
1.はじめに
2.古典派価値論の再定義
3.古典派価値論の意味しないもの
4.古典派価値論に欠如するもの
第5章 新しい国際価値論とその応用(塩沢由典)
1.はじめに
2.リカード貿易理論の最小モデル
3.国際価値論の基本結果
4.輸送費がかかる場合ほかへの拡張
5.生産技術の変化とその影響
6.赤松要の雁行形態論(基本形)

討 論 編
第6章 生産と消費の古典派経済観の発展的分析(有賀裕二)
第7章 ネオ・リカーディアンの差額地代理論の数学モデルについて(浅田統一郎)
第8章 価格と数量の同時決定体系への転換―経済学観の分岐点― (吉井哲)
第9章 モデル科学としての経済学―J.S.ミルの経済学方法論から考える―(滝澤弘和)
第10章 P.H.ウィクスティードにおける「資源配分」と「所得分配」の原意(井上義朗)
第11章 動学的比較優位とアジアの再台頭(横川信治)
第12章 雁行形態発展論と東アジアの国際生産・貿易ネットワーク―中間財貿易の古典派的理解による理論化―(植村博恭)
【目次】終了

■第1章 なにが必要か―経済学再建のために―(塩沢由典)
1.過去30年間のマクロ経済学
2.マクロ経済学のミクロ的基礎付け
3.ケインズの「生産の貨幣的理論」
4.マーシャルとケインズ
5.新古典派価値論からの脱却

■提案1
現今のマクロ経済学の問題点は、ケインズのマーシャル経済学再建の失敗に起因する。再建に必要なのは、過程分析と古典派価値論の復活である。

■評
本章では、再建の第一歩として、現代マクロ経済学の混迷の原因を探っている。通常、新古典派に批判的な論者がこの文脈で語る場合、old Keynesian ならケインズご本尊と、ランゲ、ヒックスらの改訂版マクロ経済学やサミュエルソンの教科書化マクロ経済学の間に不連続面を置き、ケインズもしくは『一般理論』をハードコアとして、「ケインズに戻れ」やら「IS・LM分析によるケインズの歪曲」を述べたてるところである。

 しかし、著者は問題設定をケインズへ押し戻し、さらにその師マーシャルまで押し戻した。この辺りの著者の議論は、1970年代後半、『経済セミナー』誌に断続的に寄稿していた一連のエッセイでも明確だった。方程式における変数間の決定関係の追跡*の重要性、マーシャルに潜在するフルコスト原理**、等はそうである。

 この章で評者が新鮮に感じた点は二つある。一つは、マーシャルの数量調整アプローチがケインズの有効需要原理を先取りしていたということ。2点目は、現在のミクロ経済学教科書の企業理論での、平均費用曲線・限界費用曲線等の道具一揃いが、マーシャルではなくその後継者ピグーの手になるものであり、批判者であったロビンソンやチェンバレンの不完全競争論の中で結果的に明確化され定式化されたこと、である。

 上記の議論は、5節「新古典派価値論からの脱却」前半まで続き、著者の強靭で息の長い思索力に導かれ、非常に知的にスリリングであった。

 問題は、5節後半のフリードマン「実証経済学の方法」批判である。著者の立論とフリードマンへの強い批判に全く異論はない***。そして、ここにも著者の得意とする強い思索力が有効だった。しかし、なにせ議論が重い。これは同著者『近代経済学の反省』における概念批判・イデオロギー批判の章でも同じだった。この5節は二つに分割し、オックスフォード調査等****の部分までを4節に統合し、5節はフリードマン批判に絞るべきだったのではないか。少なくともプレゼンテーションとしてはそのほうが有効だったと思う。

*ハイエクの初期の貨幣的景気循環論(累積過程+2部門過剰投資論)なども過程分析として、現代的に再生する意義は少なくないと思う。チラっと見ただけで、その後遠ざかっているので全くの素人意見。とりわけ、マルチ・エージェント・ベースモデルに乗せるのに、有意味なモデル化をするピッタリの理論だと直観的には思うのだが。

**塩沢氏の他にも、マーシャルのフルコスト原理に触れていた日本人論者がいたと思うのだが、随分前に読んだので失念した。

***フリードマンと同じ過酷な運命を生き抜いたユダヤ系亡命知識人の経済学者ハーシュマンなどとは雲泥の差だ。フリードマンが恩師のナイトから破門されるのも当然のことだろう。下記の訳者補説におけるハーシュマンの半生記を参照。この部分だけでも3500円の価値がある。
A.O.ハーシュマン著『離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応』矢野修一訳(MINERVA人文・社会科学叢書)

****産業組織論では触れられる、マクシー・シルバーストーン曲線(量産効果曲線)なども、新古典派企業理論には十分な反論だが、各種実態調査とともにスルーされている。

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コメント

塩沢由典 様

コメント、ありがとうございます。
別記事で応答する予定です。急に身辺多忙となったため今しばらくお待ちください。

投稿: renqing | 2015年10月27日 (火) 10時46分

各章ごとの詳しい紹介と評価、および総括的な「結」、読ませていただきました。きちんと理解していただいたこと、感謝します。

わたしのホームページの「著書」ぺージにも、ようやくリンクを張ることができました。

投稿: 塩沢由典 | 2015年10月24日 (土) 21時52分

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