歴史における事実と意見
中学歴史教科書で最も優れているのは東京書籍だと思うが、今年改訂された版の P.114に、「さまざまな身分と暮らし」という節がある。そこに我々も耳タコの「士農工商」の記述がある。
資料に、「士農工商風俗屏風図」という徳川初期の図版が掲げられている。図版キャプションに、武士の特権として名字・大小の刀の所持、とあるが、町人の絵には注意深く見ると、小刀(脇差)を腰に差している非武士身分の商店客が2名ほど見える。当時の資料と教科書の解説が見事に異なっているのだが、これなども、徳川期の庶民は身分差別で抑圧されていた、明治近代の御代で「四民」は解放された、という言説のなせる業だろう。徳川期の庶民のお墓の写真でもあれば、そこに堂々と苗字が刻まれていることも見えるはず。まずは子供たちから洗脳する、というなら、オウム真理教と大同小異で※「あります」。
歴史は、言説の闘技場なのだ。それには強靭かつ繊細な知性が要求される。
※大日本帝国陸軍方言「~であります」は長州由来。
帝都警視庁警察官方言「オイ、こら!」は薩摩由来。
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