日本史学における概念史の嚆矢
ドイツ国制史で鍛えられてきた概念史 Begriffsgeschichte 。それに類することは、自覚的でないならばこれまでにも幾つかある。例えば、網野善彦が「百姓」は peasants ではなく、common people の意味だ、と発言しだしたのはおそらく1980年代後半からだと思う。
しかし、それを自覚的に実行し、日本史学アカデミズムにおける用語法に後戻りできない影響を与えたのは、
渡辺浩『東アジアの王権と思想』(1997年)東京大学出版会
中の、序「いくつかの日本史用語について」
初出の「幕府」「藩」「天皇」分析だろう。
※参照→日本史における概念史アプローチ
本書出現以降、優れた日本史研究者で、「徳川幕府」、「幕藩体制」「水戸"藩"」、等を不用意に使う研究者は皆無となった。したがって、「鎌倉幕府」「室町幕府」と安直に使うわけにも当然いかない。ただし、残念ながら中学、高校の教科書には未だに満載である。この語を用いないと著しく記述がやりにくくなるという実務上の要請もあるだろうが、文部科学省の「検閲」が大きいだろう。現在の政府機構は、維新ボルシェビキ政権の後裔だからだ。したがって、巷の歴史好きに「維新ファン」が再生産されることになる。歴史学上の命題・名辞には、「事実命題」に名を借りた「規範命題」がごろごろしている。諸氏も警戒怠りなきよう。
※以上、amazonレビュー投稿。弊ブログでは同工異曲だが、念のためこちらにも保存しておくことにする。
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