石井紫郎「近世の国制における『武家』と『武士』」1974年
本論文は、比較国制史研究における日本を代表する業績であり、日本における《近世 early modern》の持つ人類史的意味を知るための必読文献でもある。
石井紫郎「近世の国制における『武家』と『武士』」1974年
目次
一 はじめに 本書の構成をめぐって
二 武士の家訓と近世の国制
1.問題の所在
2.近世主従制とレーン制
3.「職分」の体系 その一
4.「職分」の体系 その二
5.ヨーロッパの官職売買
6.「家」と「家職」
7.「職分」と「名分」
8.「職分」の体系と主従制
三 赤穂事件と近世の国制
1.「公の義理」と「私の義理」
2.残された問題
①岩波書店・日本思想大系27『近世武家思想』1974年刊石井紫郎校注、P.477所収
②石井紫郎『日本国制史研究II 日本人の国家生活』1986年刊東京大学出版会、P.167所収
さて、本論文でもっとも興味深い記述は以下である。
要するに、ヨーロッパにおいては生得の地位と官職との二元性を前提にしつつも、現実において、de facto にも、de jureにも、後者が前者にひきよせられていったのであり、これは、わが近世において右の両者が「職分」概念の下に一元的にとらえられ、しかも前者が後者にひきよせられていったのと、まさに逆のヴェクトルを示している。
①P.510、②P.194
ここで、《生得の地位》⇒《であること》、《官職》⇒《すること》、と置換すれば、近世ヨーロッパでは《すること》が《であること》化し、近世日本では《であること》が《すること》化する傾向を有していたことになる。これは、下記の高名な、丸山真男の指摘と真逆の歴史的推移ではなかろうか。
身分社会を打破し、概念実在論を唯名論に転回させ、あらゆるドグマを実験のふるいにかけ、政治・経済・文化などいろいろな領域で「先天的」に通用していた権威にたいして、現実的な機能と効用を「問う」近代精神のダイナミックスは、まさに右のような「である」論理・「である」価値から「する」価値・「する」論理への相対的な重点の移動によって生まれたものです。
丸山真男『日本の思想』(1961年)岩波新書、p.157
続く(はず)
| 固定リンク
「Tokugawa Japan (徳川史)」カテゴリの記事
- 徂徠における規範と自我 対談 尾藤正英×日野龍夫(1974年11月8日)/Norms and Ego in the Thought of Ogyu Sorai [荻生徂徠](2023.08.30)
- 暑き日を海にいれたり最上川(芭蕉、1689年)(2023.08.02)
- Giuseppe Arcimboldo vs. Utagawa Kuniyoshi(歌川国芳)(2023.05.24)
- 徳川日本のニュートニアン/ a Newtonian in Tokugawa Japan(2023.05.18)
- 初期近代の覇権国「オランダ」の重要性/ Importance of the Netherlands as a hegemonic power in the early modern period(2023.05.15)
「国制史(Verfassungsgeschichte)」カテゴリの記事
- Otto Brunner, Land und Herrschaft : Grundfragen der territorialen Verfassungsgeschichte Österreichs im Mittelalter, 1939(2024.06.08)
- 対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案(昭和十六年十一月十五日/大本営政府連絡会議決定)/Japan's Plan to Promote the End of the War against the U.S., Britain, the Netherlands, and Chiang Kai-shek 〔November 15, 1941〕(2024.06.02)
- 書評:関 良基『江戸の憲法構想 日本近代史の〝イフ〟』作品社 2024年3月(2024.05.13)
- Seki Hirono and Feminism (1)(2022.05.06)
- 関 曠野とフェミニズム(1)(2022.05.06)
「石井紫郎(Ishii, Shiro)」カテゴリの記事
- What are legal modes of thinking?〔PS 20230228: Ref〕(2023.02.26)
- 法的思考様式とはなにか/ What are legal modes of thinking? 〔20230228参照追記〕(2023.02.26)
- Instruction manual for our blog(2021.05.02)
- 弊ブログの取扱説明書/ Instruction manual for our blog(2020.03.10)
- 東浩紀『観光客の哲学』2017年4月、を巡る雑感(1)(2017.08.15)
「丸山真男(Maruyama, Masao)」カテゴリの記事
- 書評:関 良基『江戸の憲法構想 日本近代史の〝イフ〟』作品社 2024年3月(2024.05.13)
- Masao Maruyama, "Carl Schmitt (Schmitt-Dorotic) (1888-1985)," 1954(2022.06.06)
- 丸山真男「シュミット Carl Schmitt (Schmitt-Dorotic)(1888-1985)」、1954年(2022.06.06)
- 丸山真男,现代自由主义理论,1948年(2022.06.05)
- Masao Maruyama, "Modern Liberalism," 1948(2022.06.05)
コメント