幕末維新最大の謎
戦前日本の国家神学と言えるものは、《水戸学》である。戦前の日本人をその一言で黙らせた《国体》というマジックワードも、会沢正志斎『新論』が発明したものだ。したがって、私たちは一つ謎に逢着する。
すなわち、19世紀後半のこの列島国家において、一つのイデオロギーが国家神学としてヘゲモニーを握った瞬間に、そのヘゲモニーを創出し、担った政治勢力は、史上からかき消えてしまった、という謎である。
本来なら、水戸徳川家からこそ元老、顕官が輩出して不思議ではないはず。
その最大の要因は、幕末維新期の水戸徳川家が凄惨な血で血を洗う内ゲバ、テロで明け暮れていたことがあるだろう。そもそも徳川将軍家の最高家格の藩屏として遇されていた水戸徳川家から最強の「尊王」イデオロギーが誕生した、という事態が矛盾の発端である。
水戸学が幕末テロリズムの淵源であることは、桜田門外の変の徒党18名中17名が水戸徳川家家中であることからも推定できる。残りは島津家家中。そして彼らは《公儀体制》を守るために(正道に戻すために)、国政の最高責任者を殺害した。
水戸学がテロリストを生み出す、というこの精神史的(生活史的)メカニズムの解明こそ、近代日本(思想)史学者がやるべ喫緊の課題だと思う。それが結果的に、近代日本を覆うエピステーメー、「長州史観」という最大の fake を撃つための橋頭保になるだろう。
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