訃報 村上淳一氏
法史学者村上淳一氏が亡くなられた。10月24日、84歳。肺炎とのこと。著作で存じ上げているだけだが、知的な恩義を感じている身なので、弊ブログにて一言。
村上淳一氏の貢献は、ヨーロッパ史、とりわけドイツ語圏を中心とする大陸ヨーロッパの近代史、あるいは初期近代( Early modern)史を、法史あるいは国制史の視角から詳細・緻密に見直し、近代日本で形成されてきた《近代ヨーロッパ》像に、基本的な修正を提起したところだろう。
上記の意味で、村上氏の貢献はかなり大きなものであることは容易に想像がつくと思う。学界においても広範な影響を与え続けているのだが、氏の活躍された分野が法史学、という地味なカテゴリーのため、その令名がアカデミズムの外にほとんど知られていない。もっと明確に述べると、法史学者は歴史学者から身内と思われていない節があり、氏の知的貢献が日本人の西欧史学者にでさえ影響を与えずに来ている。
そのため、戦後の高校世界史教科書や中学歴史教科書における、西欧史の記述に、村上氏の業績は、いささかの変化ももたらしていない。グローバル・ヒストリー研究の影響で、いわゆる西欧中心史観からは、さすがに教科書内容も離脱してきたが、そこに描かれている西欧史像は、旧態依然とした、西欧自身の自画像とほとんど大差がない。これでは、非西欧圏で西欧史を学ぶ意義は半減してしまう。我々近代以降の日本人は、西欧アカデミズムの影響下、西欧人の眼差しで、「日本(人)」像を形成してきた。裏を返せば、西欧人の「西欧(人)」像、すなわち彼らの自己規定をそのまま鵜呑みにしてしまい続けていると言える。
氏の訃報を機に、その業績に再び注目が集まることを願う。
〔参照〕村上淳一氏を巡る雑感
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