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2018年5月20日 (日)

樺山紘一編著『現代歴史学の名著 』1989年中公新書(後編①)

中編からの続きです。

14.評者:河原温
ブローデル『フェリペ2世時代の地中海と地中海世界 』
Braudel, Fernand. La Mediterranee et le monde mediterraneen a l’epoque de Philippe II, 1949

The Mediterranean and the Mediterranean World in the Age of Philip II (Mediterranean & the Mediterranean World in the Age of Philip)

浜名優美訳 『地中海』(全5巻、藤原書店、1991年-1995年)、普及版2004年/小型版・全10巻、1999年

(1) 「環境の役割」藤原書店、1991年11月。ISBN 4938661373
(2) 「集団の運命と全体の動き 1」藤原書店、1992年6月。ISBN 4938661519
(3) 「集団の運命と全体の動き 2」藤原書店、1993年6月。ISBN 4-938661-80-2
(4) 「出来事、政治、人間1」藤原書店、1994年6月。ISBN 4938661950
(5) 「出来事、政治、人間〈2〉」藤原書店 、1995年3月。ISBN 4894340119

 この書物は十六世紀後半のスペインの絶対君主フェリペ二世の統治時代を中心とした、地中海世界の全体的構造の叙述である。〔p.133〕

 第一部「環境の役割」は、上述したように十六世紀地中海世界の基本構造をなす諸要素の叙述である。・・・。まず、山地と平地、海と島々、半島と海岸といった地中海空間の地形的構造に焦点が合わされ、続いて気候、季節と歴史の関わり、そして最後に人間の移動と定住に関わる道(陸路と海路)と都市の機能が論じられる。〔p.135〕

 第二部「集合的運命と全体の構造」は、第二の中期的時間のレベルすなわち社会的時間に基づく社会集団、集合体の諸構造の歴史である。・・・。・・、十六世紀の地中海をハプスブルク・スペインとオスマン・トルコという二大帝国の覇権の時代と規定し、社会的には人口爆発と価格革命を背景とする富のいちじるしい分極化の時代として位置づけるのである。〔p.135-6〕

 第三部「諸事件、政府、人々」は、政治的事件、出来事の歴史を扱っている。・・・。たとえば彼(ブローデルのこと:引用者註)は、フェリペ二世について論じながら、従来しばしば指摘されてきた彼の政治的緩慢さを彼の個人的性格に帰すというよりも、むしろ彼の支配するスペイン帝国の巨大さに起因するコミュニケーションの困難さや、帝国の諸所における同時発生的な事件の頻発といった、帝国の諸構造の結果としてとらえるのだ。〔p.136〕


15/16.評者:中嶋毅
カー『ボリシェヴィキ革命』『一国社会社会主義』
Carr, Edward H. A History of Soviet Russia, 1950-1978

The Bolshevik Revolution, 1917-1923 (History of Soviet Russia)

ボリシェヴィキ革命―ソヴェト・ロシア史<全三巻>
一国社会主義―政治
一国社会主義経済

 イギリスが生んだ最も卓越した現代史家の一人であるE.H.カーは、90年にわたるその生涯の中で、実に勢力的に研究に従事しかつ多方面に及び優れた業績を残している。・・・。その中でもあえて代表作を挙げるとすれば、その準備期間を含めて三〇年を越える年月が費やされた大著『ソヴィエト・ロシア史』を挙げることに恐らく異論はないであろう。これは全四部一〇巻一四冊からなる大史である。・・・。この『ソヴィエト・ロシア史』は第一部『ボリシェヴィキ革命』三巻と第三部『一国社会社会主義』のうちの二巻が翻訳されているにすぎないことは大変残念なことである。〔p.144〕

 『ボリシェヴィキ革命』の第一巻(一九五〇年刊)は主に政治的側面に焦点を当てており、党と国家の問題や憲法の問題、さらに民間問題とソ連邦の形成の問題を扱っている。・・・。第二巻(一九五二年刊)は経済問題に焦点を移行し、戦争と革命による経済的混乱からソ連経済を復興し、新たな経済秩序を建設しようとする過程が描かれている。第三巻(一九五三年刊)はこの時期の外交問題を扱っており、革命的熱狂がソヴィエト・ロシアの外交政策を支配し、コミンテルンが創設されて活発に活動した時代から、次第にソヴィエト・ロシアの国家理性が外交の表舞台に現れてくる過程が分析される。このように、総じて『ボリシェヴィキ革命』には、「混乱から秩序へ」という大きな流れが全体を貫いている。〔p.147〕

 『一国社会主義』は、「きわどい転換期であり、良きにつけ悪しきにつけ、革命体制にたいしてその決定的方向を与えた」一九二四年‐一九二六年の「一国社会主義」の成立過程を扱っている。〔p.147〕

 ・・・、『一国社会主義―政治』(一九五九年刊)では、「一国社会主義」論の登場から、二〇年代半ばの党内闘争をへて、「一国社会主義」路線が定着し、スターリンを中心とする多数派支配が確立する過程がその前半で扱われている。後半部分は「ソヴィエト制度」に当てられており、ソ連全域にわたる中央集権的行政機構の建設の過程が考察の対象とされている。また、『経済篇』では、主に経済復興の過程に焦点があてられ、農業・工業・労働・商業・財政・計画化などの章に分けて詳細に分析されている。〔p.148-9〕


17.評者:島田勇、
エリクソン『青年ルター』
Erikson, Erik H., Young Man Luther, 1958

Young Man Luther: A Study in Psychoanalysis and History (Austen Riggs Monograph)

青年ルター〈1〉
青年ルター〈2〉

 本書『青年ルター』は、半ば歴史の本であると同時に、半ば精神分析学の本である。アイデンティティ・クライシスとかモラトリアムなど、今日人口に膾炙している心理学の用語は、この本に著者エリクソンが使い始めたものである。〔p.156〕
 ここでは、宗教改革者マルチン・ルターの人間的、宗教的成長が、エディブス・コンプレックスなどの精神分析の方法を用いて説明されている。あのいかめしい印象を与えるルターが、父親を極度に恐れていたり、便秘がちだった、などと聞くと、世界史の教科書などからわれわれが抱きがちな、近寄りがたい怖い印象はぬぐいさられてしまう。もちろん、表題のとおり、ここで扱われているのは「青年」ルター(本書では青年期までルターをマルチンと呼び、それ以降をルターと区別している)であり、まだ痩せた男だったのだが。〔p.156〕

 ・・・。本書の読者は、心理学、精神医学の研究者、キリスト教界(カトリックとプロテスタント)、歴史学者、社会学、教育学の研究者、文化人類学者、その他教師、ケースワーカー、カウンセラーなど、多方面にわたり、その影響力は大きい。エリクソンのおこなう方法が、宗教や国民性といった問題に適用されることが、期待される。〔p.163-4〕


※以下は、後篇②へ。

ホブズボーム『反抗の原初形態 』
テイラー『第二次世界大戦の起源 』
フーコー『言葉と物 』
ヴェントゥーリ『啓蒙のユートピアと改革 』
ウィリアムズ『コロンブスからカストロまで 』

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