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2018年7月17日 (火)

個人主義、その東と西

 儒家では、修身斉家治国平天下、と言います(礼記/大学)。

 各個人が正しい行いをしていれば、家がうまく回り、各家がうまくいっていれば、国の政治が安定し、各国の政情が安定すれば、世界平和となる。

 この中国人の人間認識には、個体認識はあっても、関係(あるいは社会)認識はゼロです。

 修身した個同士ならほっといても自然にうまく関係を結び、家が斉うのか。斉家された各家はどういう関係を作れば安定した国が作れるのか。家と家のコンフリクトはどう処理するのか。治国された国同士でどういう関係を構築すれば世界平和が到来するのか。

 すなわち、中国人の人倫において、理想的な世界では、相互に、強い個人(個体)が基礎であり、もっと極端にいえば、強い個人がいさえすれば、世は治まるのです。

 ここには強い個体(個人)への要請だけがあります。ある意味、世界に冠たる強個人(強人)主義です。贅言ですが、これは individualism とは全く別ものです。弱い個体(個人)には、尊厳も、自己決定権もなく、世界に存在しないのと同じですから。よって、弱個人は家(宗族)というshellの内部にいて強い家長(leader)の指導に従わざるを得ません。子は父に反駁できません。

 新約聖書のヨハネ福音書、「カナでの婚礼」で、イエスの母(マリアさん?)がイエスに「ぶどう酒がなくなりました」というと、イエスは「婦人よ、わたしとどんなかかわりがあるのです。わたしの時はまだ来ていません。」と応答したとあります。なんとも、情も、愛想もないことですが、これが信仰における出家(というと仏教的ですが)の態度だと思いました。すなわち、神と関係を結ぶことは、世俗のあらゆる紐帯を切る(縁切り?)ことを意味する。選択と集中でしょうか。聞いたところによりますと、上智大学の神父、シスターは世俗の一切のproperty(私有財産)を持てないので、パンツ一丁まで教会からの支給品であるらしい。まあ、事実上専用ではあるようですが。

 キリスト教の信仰における妥協のなさは、教義的な部分から来ている点と、1世紀から3世紀にかけて、たまたま小アジアにおけるグノーシス主義(ギリシア化した知識人が主体)の隆盛期に初期教会の教義や教会組織を形成せざるを得なかったという点(グノーシス主義に飲み込まれる危険性)もあるように思います。ものの解説には、他の福音書と異なりヨハネ福音書にはグノーシス主義への対抗を意識した部分があるとあります。回心以前のアウグスティヌスだってマニ教(一つグノーシス主義)に10年近くはまっていた時期があるくらいなので、東地中海では相当な勢力を持っていたはずで、初期キリスト教会がその教線を、ギリシア化したユダヤ人やギリシア化した東地中海世界に広げようとすれば、眼前の最大の敵だったことになります。

 ただし、そういうサバイバルの時期を突破すると、ローマ教皇が自分の「実子(隠し子)」を「甥(英 nephew  羅 nepos)」だと平気で偽る(「身内びいきnepotism」)わけですから、アルプス以南の南欧地域では、血の紐帯を切るといっても容易なことではなかったはずです。南欧地域には、娘のフェミニズムは弱かったとしても、強力な母(mama)のフェミニズムが、現代においても頑としてあります。

 従いまして、ひとを神との関係で、孤独な個体(個人)にまで追い詰めるような、「選択と集中」の強制は、キリスト教が、底冷えする、食の貧しい、アルプス以北に教線を拡大して、禁欲的プロテスタンティズムへと変性してからで、ローマンカトリックもそれとの対抗上、体制内改革をすすめ、多少とも相似する部分ができたと思われます。

 日本では、中華大陸風の強人主義も、西欧の孤人主義も、歴史的地盤がないわけで、強い個人も、孤独な個人も要請しない、和辻哲郎のいう、「人間(じんかん)の倫理」としての人倫関係に帰着する結末を迎える、と思います。

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