発見法としての類比と隠喩(analogy or metaphor as heuristics)
類比(analogy)と隠喩(metaphor)は、知的創造において有効な道具です。
アナロジーは、未知の、複数の要素で構成されている可能性のある構築物(structure)、あるいは系(system)を考察対象とする際に、既知の構築物やシステムとの類比的な対応関係を想定して、未知の構築物/システムの内部を、その既知のシステムの既知データから、洞察を試みるものです。
メタファーは、ある言葉で表現される一つのobjectを、他の言語表現で置き換えることで、それまでとは異なった見方、像が得られることを狙った行為です。
私が弊ブログで使う、「人間の認知像は、言葉の織物(textile)である」というのも、メタファーですね。これで、洞察が得られているかどうかは、別としまして。
「尾(価格)がイヌ(経済実態)を振るのではない。イヌ(経済実態)が尾(価格)をふるのだ。」なんていうのも、マクロな経済量(産出量)と例えば物価、あるいは株価との関係を考察する手掛かりになるでしょう。コミュニケーションを「言葉のキャッチボール」で譬えるとかもそうです。「思想とは空気である」なんてのもあります。
アナロジーで見事な具体例だと思うのは、
です。世界宗教の比較分析するのに、その発生、伝播、定着、を、疫学のモデルを使ってその対応関係を一つ一つ具体的にpick upして腑分けしてみせます。非常にわかりやすく、知的におもしろい。日本列島における、各派仏教の歴史的栄枯盛衰を分析するにも使えそうでしすし、Max Weberの「世界宗教の経済倫理」のスタティックな理論と、梅棹のダイナミックな理論を比較したり、前者に後者を組み込んだりすることは、いろんな点で発見法的な意味をもつのではないか、と思います。
そのWeberの重要な分析道具である、Anstalt(≒institution) と Verein(≒club, association)という組織の2分法も、元来、Kirche(ローマ教会)とSekte(プロテスタンティズムの各教派)との対照性からアナロジーされたものでした。
※参照→マリア様はひと様か、それとも神様か
効果的とはいっても、一つの発見法ですから、うまくいかない時もありますので、試行錯誤的にいろいろ使い倒してみる、というのが健全な利用法であるかと思います。
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