国会議員の法律案の発議権(議員立法権)
少し気になったので、日本の国会議員の法律案の発議権(いわゆる議員立法権)が憲法上どう規定されいるのか調べました。以下はその簡単なリサーチ結果です。
憲法上における議案発議に関する条項は、実は「内閣総理大臣の職務権限」に一か所だけ存在します。
〔憲法〕第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。〔内閣総理大臣の職務権限〕
ついでに国会議員には国政調査権とかあったなぁ、と調べてみると、「議院の国政調査権」であって、「議員の国政調査権」ではありませんでした。
〔憲法〕第六十二条 両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。 〔議院の国政調査権〕
どうも腑に落ちないので、さらに調べると、一応、〔国会法〕に規定がありました。
〔国会法〕第五十六条 議員が議案を発議するには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員五十人以上、参議院においては議員二十人以上の賛成を要する。
2 議案が発議又は提出されたときは、議長は、これを適当の委員会に付託し、その審査を経て会議に付する。但し、特に緊急を要するものは、発議者又は提出者の要求に基き、議院の議決で委員会の審査を省略することができる。
それにしても、日本の国会議員っていうのは、議員団(=政党)でしか有効な活動が事実上できないことが判明しました。それなら、と他国の事情はどうかと調べると、うまい具合に一覧表にしてくれてあるご研究がありました。
表1 各国における議員立法の発議要件(アルファベット順) | ||||
国 名 | 発議要件の有無 | 詳 細 | ||
オーストラリア | × | |||
オーストリア | ○ | 5人の賛同が必要。 | ||
ベルギー | △ | 単独で提出可能。ただし、法案が審議される前までに、5人の賛同が必要。 | ||
カナダ | × | |||
デンマーク | × | |||
エストニア | × | |||
フィンランド | × | |||
フランス | × | |||
ドイツ | ○ | 総議員の5%以上の賛同が必要。 | ||
ギリシヤ | × | |||
アイスランド | × | |||
アイルランド | × | |||
イタリア | × | |||
日本 | ○ | 20人(予算を伴う法律案の場合50人)以上の賛同が必要。 | ||
ルクセンブルグ | × | |||
オランダ | × | |||
ニュージーランド | × | |||
ノルウェー | × | |||
ポルトガル | × | |||
韓国 | ○ | 発議者を含め、10人以上の賛同が必要。 | ||
スペイン | ○ | 発議者以外に14人の賛同が必要。 | ||
スウェーデン | × | |||
スイス | × | |||
タイ | ○ | 10人の賛同が必要。 | ||
イギリス | × |
五ノ井健「日本の議員立法―国際比較の視点から―」早稲田政治公法研究第114号〔2017年12月〕より
こうしてみると、日本における国会議員個人の権能はかなり制約がありそうだ、と感じます。これでは、党のイエスマンとかロボットになる議員も多くなってしまうのではないでしょうか。
PMアベは改憲したくてたまらない御仁のようなので、どうせ憲法修正(=改憲)するなら、その動きに乗って、国民の代理人である国会議員の権能を強化する憲法修正をしてみてもいいのではないか、愚考した次第です。
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