« 洗濯物はなぜ乾く?(1) | トップページ | ヴァルネラビリティを巡る、パスカル、レヴィナス、吉野源三郎(Pascal, Levinas and Yoshino Genzaburo On Vulnerability) »

2019年4月29日 (月)

洗濯物はなぜ乾く?(2結)

 前回からの続きです。

■水
 次は、問題の液体(liquid)としての水です。

 さきほど、氷の説明の際、《水素結合》しているので固い、と言いました。固体の氷が融けて液体の水になる、ということは、この鉄筋のような《水素結合》が、氷の各所でブチッ、ブチッと切断していることを意味します。完全に水分子(H2O)1個分に切り離されるなら、それは水蒸気(気体)の状態です。しかし、この《水素結合》はかなり強力で、そのつながりを熱エネルギーで全てを簡単に切断できません。

 状態変化は、物質を構成する分子間の距離が、《密》か、《粗》か、《完全に切り離されているか》、ということに対応する状態ですから、液体としての水分子(H2O)間の距離は、個体(氷)ほどくっついてはいないが、気体(水蒸気)ほど完全に孤立化している訳でもない、という中途半端な状態と言えます。

■液体としての水(H2O)の特異性

 ここで、前回の最後にあげた表を再掲します。

  分子式 分子量   沸点(℃)  常温状態
メタン CH4 16 -162 気体
H2O 18 100 液体
エタン C2H6 30 -89 気体
プロパン  C3H8 44 -42
ブタン C4H10 58 -1
ペタン C5H12 72 36 液体
ヘキサン C6H14 86 69
オクタン C8H18 114 126

 さて、この表から分かることはなんでしょうか。この表は、上から下へ分子量の昇順で並んでいます。そして、沸点は(ある物質を除くと)分子量が増えるに従って、上昇します。その例外物質が、水(H2O)であることは、この表で一目瞭然です。また、それ以上に奇怪なのは、これほど分子量が小さいのにも関わらず、常温で液体のままである、という点です。

■液体の水(H2O)は、あまり冷たくない氷(H2O)?

 水分子(H2O)が示す、液体の水の中で示す特異な構造を、クラスター(cluster 葡萄の房)といいます。いわば、氷より緩くなった水分子の集団があちこち漂っている状態が液体の水なのです。そのため、小さな分子量にも関わらず、常温で液体で存在し、沸点が異常に高い。水の粘性率がメチルアルコールのような液体より50%も高いのは、このクラスター構造のために、分子の自由な流動が妨げられているからです。また、水の比熱が大きいことも、液体中のクラスター水分子(H2O)を、単体の水分子(H2O)に切断するために大きな熱エネルギーが消費されるためです。そしてこれが水の表面張力の源でもあります。

sub01_4_hard_5
水分子の特徴と性質 | 次世代の解凍鮮度保持システム【エフデックス】 様より拝借

■状態変化に必要なエネルギー

 では、この特異な水分子(H2O)が状態変化する際に、どのくらいのエネルギーがかかるのでしょうか。とりあえず、1気圧が前提です。

 ①氷→水 融点0℃で79.65cal/gの融解熱が必要。

 ②水→水蒸気 25℃で583cal/gの蒸発熱が必要。

 真夏、打ち水をすると、かなり涼しくなるのは②の数値を見れば納得できそうです。また、消火活動の中心が放水であることも、水の大きな吸熱作用をみれば頷けます。

洗濯物はなぜ乾く?Ⅰ太陽定数

 天日に干して洗濯物が乾く過程を考えてみましょう。

 太陽定数というものがあります。太陽光が垂直な単位面積あたりに供給するエネルギー量を言いますが、S=1.96cal/cm2・min、です。これは大気層の上端での値ですので、地上に到達するまでのロスは約半分ですから、地表での太陽エネルギーは、

1/2・S=0.98cal/min・cm2

となります。

洗濯物はなぜ乾く?Ⅱ蒸発熱から考える

 では、先ほどの

 ②水→水蒸気 25℃で583cal/gの蒸発熱が必要。

を使って、計算してみましょう。

 583cal/g ÷ 0.98cal/min・cm2 ≒ 595min・cm2/g

 仮に、1cm2あたり1gの水分があるとすれば、完全に乾くまでに、595分≒10時間かかる計算となります。少し、かかり過ぎという印象です。

洗濯物はなぜ乾く?Ⅲ大気中の分子の運動から考える

 空気中の気体分子の平均速度は、500m/sで、マッハ1.5だと前回記事で申し上げました。ちなみに、拳銃弾は約360m/s、ライフル弾は約960m/sですから、ライフル弾の半分の速さと言ってもよいことになります。

 湿度の考え方(飽和水蒸気量)では、1m3の空間において、気温が高いと飽和水蒸気量は大きくなり、気温が低いと飽和水蒸気量は低くなります。

 これを水分子(H2O)の運動で考えますと、音速の2倍の速度で運動している空気中の水分子は、気温が高いと空気中に大量に存在し、気温が低いと少量しか空気中に存在できないことになります。

 見方を変えれば、「湿度が低い」とは、一定の体積中(1m3)において、飛び回っている水分子の数が少なく、「湿度が高い」とはランダムフライングしている水分子が多い状態と見なすことができます。そんなに多く空気中を飛んでいれば、水分子どうしが衝突して水になりそうなものですが、分子のサイズが小さいため(水H2O分子量18、酸素O2分子量32、窒素N2分子量28)、水分子は相対的に衝突しにくいと考えられます。

洗濯物はなぜ乾く?Ⅳ水のかたまりの、水面とその深部で考える

 さて、一定の水の塊を考えたとき、空気と接触する水面と水中では、水分子のクラスター構造はどう違うでしょうか。水中では、三次元の全ての方向から水素結合を媒介とするクラスター構造に取り囲まれています。しかし、空気と接する水面では、三次元空間の上方では、水分子が存在しないので水素結合が働きません。そしてその方向から、マッハ1.5で、水分子より重い気体分子がどんどん衝突してきます。これが水分子のクラスター構造を破壊し、水分子を水素結合から離脱させ、空気中に弾き飛ばしているわけです。

 当然、水分子も一定の確率で衝突して、水のかたまりに取り込まれる水蒸気の水分子もいますが、乾燥している空気の場合、それ以上に、他のサイズの大きい気体分子に衝突されて、水面から空気中に弾き飛ばされる水分子の方が多いので、どんどん水面から蒸発することになります。

 衣類に吸着している水分子(H2O)は、その衣類の表面を構成している物質が親水性か疎水性か、繊維の形状によっても違ってきますが、基本的に水中にある水分子より、水面にある水分子の状態により近いでしょうから、乾燥した空気中であれば、太陽エネルギーだけでなく、この常温常圧下の水分子蒸発の仕組みからも乾きますので、日中の半日ほどですっかり乾燥することになります。その上、外気で風にさらされたりすれば、衝突する気体分子の多くなりますので、ますます乾きやすくなる、という訳です。

洗濯物はなぜ乾く?結語

 地球上の表面にある水分子(H2O)は、日光に晒されていなくても、空気中の気体分子の衝突のエネルギーで、水分子特有の水素結合によるクラスター構造から、常温常圧下でも、水面から絶えず離脱して蒸発しています。そのため、沸点以下の常温でも水は蒸発することになります。沸点を超えるときは、水の塊全てが各所で水蒸気になろうとしますが、常温では水面部だけが蒸発する。その点が沸点での蒸発と、常温での蒸発の違いと言えます。


 水分子(H2O)の水素結合による特有のクラスター構造。このおかげで、おなじく太陽エネルギーが注がれていても、他の太陽系惑星と全く異なり、地球上には生命が横溢しています。全くもって、水という物質の不可思議さを思わざるを得ません。

 地表上において、この水へのアクセスの違いが、現代文明においても、その発展の地域的違いを生み出していることについては、人類史の未来を占うポイントでもありますので、別途、論じることにします。

 

|

« 洗濯物はなぜ乾く?(1) | トップページ | ヴァルネラビリティを巡る、パスカル、レヴィナス、吉野源三郎(Pascal, Levinas and Yoshino Genzaburo On Vulnerability) »

自然科学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 洗濯物はなぜ乾く?(1) | トップページ | ヴァルネラビリティを巡る、パスカル、レヴィナス、吉野源三郎(Pascal, Levinas and Yoshino Genzaburo On Vulnerability) »