平川 新『戦国日本と大航海時代』中公新書(2018/04)〔補遺〕
以下、amazonレビュー版です。同工異曲ですが、ご参考になれば幸甚。
〔amazon・レビュー版〕
「近世リヴァイアサンの軍事力、home と away」
日本列島の織豊、徳川の近世リヴァイアサンは、確かに当時の西洋に対抗し得る軍事力を有していました。しかし、その想定戦場は、列島での home game で、陸戦です。列島の近世リヴァイアサンが船舶を仕立て、イベリア半島やグレートブリテン島に出向いて闘う away game ではありません。大砲搭載の武装帆船を有しない近世リヴァイアサンにはそれは不可能でした。海戦での軍事力の評価の視点が欠落していること。これが本書の最大の欠陥です。
また、西洋の陸戦力が機動的な野戦砲を中心として一新される18世紀末以降には、home game においてさえ、アジアの帝国は、ムガール、清朝、徳川のどれも、西洋の軍事力に歯が立たなくなります。この冷徹な歴史認識がないことも、本書の記述をグローバル・ヒストリー的評価において残念なものとしています。
ほかに、秀吉の大陸征服構想をイスパニア王国やポルトガル王国のアフリカ・アジア侵略と比較しています。しかし、日本列島のアジア大陸における地政学的地位からすれば、比べるべきは、クロムウェル政権下のイングランドでしょう。イベリア半島の2王国の大航海帝国主義に刺激された、アイルランド征服,ジャマイカ占領などが秀吉の膨張主義に相当しますし、秀吉の重商主義はピューリタン政権の航海条例・東インド会社等の重商主義政策とそのベクトルが一致するからです。
ただし、本書の評価としては、列島史における初期近代へに斬新なアプローチとして、問題提起の大きさから言って、五つ星で納得です。
平川 新『戦国日本と大航海時代―秀吉・家康・政宗の外交戦略』中公新書(2018/04)
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