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2019年5月24日 (金)

エントロピーと成長経済(2)

 (1)の補足、というか続きです。 では、前回の要約。

 王は生身のひとであり、寿命がある。そのうえ絶対権力に胡坐をかいて恣意的な振舞いをする。だから、債権者にとり、王にカネを貸すと、ご都合主義的支払い停止や、王の死によるデフォルトのリスクが常にある。だから、金融家は貸し渋るし、貸すとしても高利回りを要求する。しかし、共和国の議会は不死であり、そのうえ債務の担保として各種の租税収入(大抵は物品税)をひも付きにするなら、デフォルト・リスクは王の債務にくらべればかなり小さい。したがって、富裕家は喜んで議会(=共和国)発行の債券に投資する。こういった共和国議会の発行する租税担保の国家債務の仕組みは、12世紀の北イタリア都市共和国から始まっていますが、この金融技術がシステムとして資本主義にビルトインされるのは、軍事革命後の莫大な戦費のファイナンスに直面した、初期近代の(ピレネー以北の)北西ヨーロッパの主権国家群だった。これです。

 要するに、債務者が自然人から法人になったことが、国債制度のコアにあり、租税国家・軍事財政国家・成長を必要とする経済・中央銀行制度、が同じタイミングでイングランドに成立するポイントである、ということになります。

 ただ、この仕組みも19C.末から20世紀初にかけて、行き詰まる可能性がありました。「不死の法人」と「増殖する利子付き債務」なるものは、ひとの約束事に過ぎないからです。物質劣化のエントロピー原理に反することは不可能です。

 この破綻を一世紀先送りしたのは、石油です。ただし、西欧諸国は石炭を産し、石炭資本主義しか生み出しませんでした。石油資本主義を発明したのは欧米諸国のうち唯一の産油国、アメリカ合衆国です。しかし、当初は文字通り、「灯油」であり、鯨油の代替物だった石油は、エジソンの「電灯」のおかげで打ち捨てられる可能性もありました。それが甦ったのは、二人のドイツ人、A.オットー(1876年)、G.ダイムラー(1883年)によって確立したガソリン内燃機関です。その技術が、次々と自噴する大油田(EPR100倍!)が発見され、湯水のよう噴出する石油の新しい需要先が渇望されていた19世紀末アメリカに入ります。動力源として蒸気機関から内燃機関への移行、豊かな水力発電による安価な家庭生活・工場生産の電化、こういった生活様式・生産様式サイクルが、資本主義国唯一の大産油国アメリカで《石油化》前にすでに確立していたこと。これらが20世紀の石油資本主義と今日の、金融と環境の危機を結果的にもたらしていると思います。

 ついでに言えば、私は、本気で、19Cの南北戦争で米合衆国が、アメリカ連邦とアメリカ合衆国に南北分断されていればよかったのに、と思っています。そうすれば、20世紀の位相はかなり違ったものになっていたはずですから。

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